脳内物質オキシトシン研究の第一人者であり、脳や胃腸の分野で米国で最先端の研究を20年続けた「クリニック 徳」院長の高橋徳さんにお話を伺ってきました。
ーーー脳内物質オキシトシン研究のきっかけはストレスの研究ですか?
そうですね、私は元々、消化器の外科なんです。
それで胃腸関係でストレスがかかると、胃が痛くなったりあるじゃないですか?下痢したりとかね。
頭でのストレスがなんで胃に伝わるのだろう、という単純な疑問がありましてそれでアメリカに行きストレスの研究を始めました。
動物にストレスをかけると確かに胃の運動が悪くなったりしまして、最初の5~6年はそのような脳腸相関というのですが、脳腸相関の研究をしていました。
それから、ある程度なんで頭の異常が胃に影響するのかがわかってきたのですが、その次にその異常をなんとかコントロールするものはないものかと思ったんです。
ストレスばっかりかかってどんどん悪くなっていったら困りますよね、ではストレスから避けれるか?と言ったらある程度はできるかも知れないけど全ては避けられないです。
仕事も嫌な仕事もありますし。
人間の体の中にストレスに対応、適応できるシステムがあるのではないかと考えたのです。
それで色々調べていくうちにひょっとしたらオキシトシンではないか?と思い至ったんです。
それが2005年くらいでした、だから10年くらい前ですね。
調べるとオキシトシンがストレスを抑える作用があるというのは少しずつ出ていましたので、これはいいのじゃないか!と思い始めたのがきっかけです。
ーーーそれ以前にはオキシトシンは研究されていたのですか?
少しだけですね。胃腸関係では世界中見渡しても0でした。
人間がストレスを被ると頭の中でCRFといってストレス反応を強くするホルモンがでるのです。
オキシトシンはそのCRFを抑えるのです。
CRFは涙と一緒にもでます、 悲しい事があったら泣く、あれはCRFと言うストレス反応を出そうという作用もあります。
ストレスがずっとかかりっぱなしだと困ります、何とか抑えようとしてオキシトシンがでてうまいことストレス反応が起きない、イライラもしない、体も元気になるわけです。
すごいでしょ?(笑)
それをネズミなどでも証明していきました。その当時は外から薬としてオキシトシンを与えていました。
ところがそれでは人間に応用できないです。頭に穴を開けて入れないといけないですから。
その頃オキシトシンスプレーも出始めていました。鼻からスプレーでオキシトシンを与えてストレスを抑えるという事ではあったのですが、それはおかしいのではないか?と思ったんです。
なぜかといったら薬ですから。
薬はなんでもそうですけど、使いすぎると効かなくなってしまいます。
例えばステロイド、インシュリンの注射、その他の薬もそうですがどんどん効かなくなっていきます。
精神安定剤あるいは睡眠薬、初めは1錠飲んで寝れていたのが寝れなくなり量が増えていく。睡眠薬だけでも4種類くらい飲んでいる人もいます。
オキシトシンも外部から投与し続けると体内にあるオキシトシン受容体が鈍感になり、脳内でオキシトシンを分泌する能力が衰える可能性があるのです。
ではどうしたら自分でオキシトシンを作る事ができるのかと考えました。そこからは本当に試行錯誤でした。
愛のホルモン
ーーーオキシトシンは血中を測ればわかるのですか?
ネズミの場合は脳を取り出して測りますが、人間では代わりとして採血して血をとって測ります。それである程度はわかります。
他には尿や唾液などでも測れます。
それでどうしたらオキシトシンを出すようになるのかと考えているうちに、ストレスとは関係ないところからオキシトシンが愛のホルモンと呼ばれ、 愛情を育てる、あるいは信頼関係を強くするなどのデータが2005年くらいにネイチャーにでたのです。
色々調べていくと、人から愛されたり、優しくされる、マッサージを受けるなど気持ちいい感覚でオキシトシンがでる。
それはそれでいいんです、では愛したらどうなのかと思い、そのようなネズミのモデルを作って 自分のお友達のネズミさんを一生懸命可愛がるような実験モデルを作りました。
ネズミをお友達同士にしといて、片一方に我々がストレスを与えます。その後、元の巣に戻すと、そうしたらしょげて帰ってくるのでそのお友達が世話をしようとするんです。
それを毎日やってもらって、1週間して測ったら世話していたお友達から オキシトシンがでていたんです。
ということは人から愛されてもオキシトシンが出ますし、人を愛しても出るのです。
これは動物実験ですが、人ではどうなんだろう、そのような事例があるのか?と言うとあんまりないのです。
ただ宗教の話を聞いたり、読んだりするとそのようなことは昔から言われていたのです。
例えば極楽浄土に行きたかったら人に優しくしなさい、汝を迫害するもののために祈れ、などそういう教えはいっぱいあるわけです。
昔はもちろんオキシトシンなんて知るはずもないので科学的なことは言ってないですが、みなさん直感的にわかっていたんですね。
ダライ・ラマさんの言葉で「自分を幸せにしたければ他人の事を思いなさい」とあります。
自分が幸せになりたければ、自分の事を思うのではなく他人を思うのです。
ボランティア活動をすればするほど元気になると言う論文もあるくらいです。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18198690?dopt=Citation
私も東北の震災の際にボランティア活動をしていた時(3週間ほど)、その間は寒いし、食事も毎日カップラーメンでしたが、体がとても軽く感じ元気でした。
他にもそのような事は聞いたりします。
人はそういう無償の行為をすると、オキシトシンが出て、元気になるようになっているんだな、と実感したものです。
【関連記事】
五感に心地いい刺激を与えることで体の不調を改善【補完代替医療】
高橋徳(たかはし・とく)
ドクター徳プロフィール
1977年、神戸大学医学部卒業。関西の病院で消化器外科を専攻した後、88年米国にわたる。ミシガン大学助手、デューク大学教授を経て、2008年よりウィスコンシン医科大学教授。
米国時代の研究テーマ「ストレス」を研究していく過程で、オキシトシンと出合う。以降、10年以上にわたりオキシトシンの研究を行い、アメリカでオキシトシンに関する論文を発表。
帰国した後、国内のオキシトシン研究の第一人者として、日々研究を続ける。
13年には、郷里の岐阜県で統合医療クリニック「高橋医院」を開業。
16年、名古屋市に分院「クリニック徳」をオ—プン。
『日本健康創造研究会』
統合医療を広めるために、同志や患者さんを巻き込んで研究会を開催していきたい!
HP: https://jhcjapanhealthcreation.wordpress.com/
クラウドファンデイング: https://readyfor.jp/projects/kenkosozo
主な著書に、『自律神経を整えてストレスをなくす オキシトシン健康法』(アスコム)『人は愛することで健康になれる (愛のホルモン・オキシトシン)
』(知道出版)、『あなたが選ぶ統合医療: 古今東西の叡智が命を守る
』(知道出版)。

養生ラボ編集部です。インタビュー取材、連載コラム編集など。