あん摩マッサージ指圧師、はり師きゅう師の資格を持ち、東京医療福祉専門学校に専任教員として勤務されている湯浅陽介さんによる連載コラムです。
体力を弱らせないこと、毎日の睡眠も大事
少しずつ、春の気配が感じられる3月。
20日には春分の日を迎えます。
年度末を経て、新年度を迎えるこの時期は多忙な方が多いことと思います。
今年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の出現で不安も世間に瀰漫しています。
まずは手洗い・うがい・マスク着用など標準的な予防策を実践すべきです。
また、体力を弱らせないことも重要です。
それには毎日の睡眠も大事です。
睡眠時間の長さもさることながら、その質も見逃せない要素です。
睡眠時ブラキシズムのリスク因子
寝ているときに、歯ぎしりなどをしていて、熟睡感がない人もいることでしょう。
睡眠時の歯ぎしりは「睡眠時ブラキシズム」と言われ、歯や歯根の損傷など口の健康にも悪影響がある他、睡眠の質の低下につながるとされます。
睡眠時ブラキシズムのリスク因子として、飲酒や喫煙、カフェインなどの嗜好品の摂取やストレスが言われています。
避けられる因子は可能な限り避けた上で、プラスαの対策を東洋医学的に考えてみましょう。
歯ぎしりの動作はものを噛む動きです。
噛むことに使う筋肉を「咀嚼筋(そしゃくきん)」と言います。
下の写真のような分布をしています。
噛む動作には顎の周囲がかかわることはイメージできると思いますが、頭の側面・側頭部から下あごにつながる筋肉もあります。
ストレスによる噛みしめでここの筋肉が緊張し、頭痛が出ることもあると考えられます。
東洋医学における独特のエネルギー伝達のルート
そして、咀嚼筋の存在部を含めた全身に流れる経絡(けいらく)、というものがあります。
これは東洋医学におけるツボ・経穴(けいけつ)を連続させた独特のエネルギー伝達のルートと考えられています。
咀嚼筋をカバーするのは足の陽明胃経(ようめいいけい)と足の少陽胆経(しょうようたんけい)という経絡です。
下の写真のように、頬骨の下にある「下関(げかん)」、顎のいわゆる「えら」にあたる「頬車(きょうしゃ)」というツボがあります。
さらに側頭部には複雑にツボが並んでいるため、こちらはエリアとしてとらえて見ていきます。
そして、咀嚼筋そのものに加え、関連する経絡が流れている足へのアプローチも行ないます。
ちなみに、顎の周囲は陽明胃経、側頭部は少陽胆経がそれぞれ支配している領域と考えられます。
足の陽明胃経
足の陽明胃経は、目の下から始まり、身体の前を通って足まで下りていきます。
足の少陽胆経
足の少陽胆経は、目じりから始まり、耳の前や側頭部、首肩を経て身体の側面を通り、足へ下りていきます。
おおまかな流れを見たら、まずは咀嚼筋へのアプローチです。
咀嚼筋へのアプローチ
ツボや点というよりはエリアとして面でとらえてマッサージでほぐします。
下の写真で示した部、手の親指以外の4本の指を用いて軽く圧迫し、揺するようにしていきます。
側頭部を全体的に行います。
続いて頬骨の下の縁を行ないます。
そして、顎の、えらの部分です。
次は脚の刺激
次に脚の刺激に移ります。
足の少陽胆経は、下腿の側面で膝の下にある骨の膨らみ、「腓骨頭(ひこつとう)」の前の縁から下へまっすぐ下りていきます。
まず、腓骨頭の前の縁から、親指で圧迫しながら下へ下ります。
外くるぶしの前を通ります。
続いて足の一番外側の骨の内側を圧していきます。
これは足にある中足骨(ちゅうそくこつ)という5本の骨で、その外側と1つ内側の骨の間を圧迫しています。
ここは痛みを感じる人が多いところです。
そのまま足の第四(手でいう薬指)の爪の小指側の縁を圧迫して終えます。
これで足の少陽胆経の刺激は終了です。
次いで、足の陽明胃経は、膝のお皿の下の外側のくぼみから下へ行きます。
そのラインを下りていき、
足首の中央を通ります。
続いて中足骨の内側から2番目の骨のすぐ外側の縁を圧迫していきます。
最後に足の第2趾(手でいう人差し指)の爪を圧迫して終了です。
これらを、心地よく感じる強さで寝る前に3~5回程度行ってみて下さい。
体幹にも、経穴は存在していますが、刺激をする際の簡便さを考えると、四肢(ここでは脚)が良いです。
また、四肢は体幹部に比べ、感覚が鋭いです。
これは触覚や痛覚だけではありません。
治療的な刺激も同様で四肢への刺激は効果を出しやすいと考えられています。
実際に東洋医学で重要とされるツボの多くは四肢の肘先・膝下に存在しています。
このような、ケアを普段の生活に取り入れて、少しでも睡眠の質を上げて体力の維持をはかりたいものです。
近年、これほど病気の予防を意識させられる年は記憶の限りありません。
人によっては100年ごとに訪れる大規模な感染の周期の1つととらえているようです(ペスト、コレラ、スペイン風邪)。
こういう時こそ、決して闇雲に不安に煽られることなく、健康の有難さを感じ、また守って行く姿勢が必要なのだと考えています。
冒頭にも書きましたが、手洗い・うがい・マスク着用と言った、「当たり前」に東洋医学的なケアを加え、みなさんがこの状況を乗り切って下されば幸いです。
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湯浅 陽介(ゆあさ ようすけ)
1974年富山県生まれ。あん摩マッサージ指圧師、はり師きゅう師の資格取得後、教員養成科にて同教員資格取得。東京八丁堀の東京医療福祉専門学校に専任教員として勤務。学科と実技の授業を担当。学校勤務の傍ら、週末には臨床に携わっている。
学校HP⇒ http://www.tokyoiryoufukushi.ac.jp/index.php
学校FB⇒ https://www.facebook.com/tokyoiryofukushi/
学校ツイッター⇒ https://twitter.com/tif8chobori
養生ラボ編集部です。インタビュー取材、連載コラム編集など。