あん摩マッサージ指圧師、はり師きゅう師の資格を持ち、東京医療福祉専門学校に専任教員として勤務されている湯浅陽介さんによる連載コラムです。
鼻へのアプローチに使うツボ
4月となり新年度を迎えました。
暦の上では4日が二十四節気の晴明。
春の新しい気が満ちる節目の日です。
依然、新型コロナ感染症は終息が見えませんが、花粉症の方は症状に悩まされマスクを手放せない季節です。
桜が例年より早く開花し、世相と裏腹に春爛漫のこの時期、鼻のケアについて考えてみたいと思います。
花粉症の症状では鼻水が出たり、鼻がつまったりします。
また寒暖差の大きいこの時期鼻かぜを引くこともあるでしょう。
そこで、鼻へのアプローチに使うツボをご紹介します。
また、東洋医学において鼻を含む呼吸器を司るとされる経絡というエネルギーのルートへのアプローチをご紹介します。
通常の鼻水や鼻づまりは鼻の穴の奥、「鼻腔(びくう)」の炎症で起こります。
炎症はウィルスや細菌と言った、外敵に対する免疫反応で起こります。
花粉症の場合は人体に害を及ぼさない花粉に、免疫が過剰に反応して起こるアレルギー反応です。
また、鼻腔の中にはいくつかの穴があり、それが頭蓋骨の中の空洞につながっています。
この空洞を「副鼻腔(ふくびくう)」と呼びます。
その中でも比較的有名なのが「前頭洞(ぜんとうどう)」と「上顎洞(じょうがくどう)」です。
前頭洞はちょうど、おでこの骨の後ろにある空洞です。
横の断面図を見ると、おでこの骨の中に空洞があるイメージです。
上顎洞は、上あごの骨の中にある空洞です。
先ほどの前頭洞よりも後ろ側に位置していて、鼻の両脇の奥にあるイメージです。
これらに炎症が起きるものを「副鼻腔炎」と言います。
風邪などの呼吸器の感染症に付随して起こることがあります。
風邪にせよ、花粉症にせよ、マスク着用などの予防が第一です。
また、症状が出てしまったら、時に医師による診察や服薬を要します。
それらにプラスして行なうことで、症状をより軽くするための方法としてツボを応用してみてはいかがでしょうか。
ちなみに上記に紹介した以外にも副鼻腔には「蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)」、「篩骨洞(しこつどう)」がありますが、頭蓋骨のやや奥であったり、眼窩の奥であったりするので、特に体表からのアプローチが難しく思われます。
それらを含む骨ですら、体表からの確認が困難です。
そこで、ここでは前頭洞と上顎洞を含め、鼻へのツボによるアプローチを紹介します。
まずは鼻と、副鼻腔へのツボアプローチです。これには、4つのツボを用います。
鼻と、副鼻腔へのツボアプローチ【4つのツボ】
それぞれ、①陽白(ようはく)、②攅竹(さんちく)、③四白(しはく)、④迎香(げいこう)です。
これらは副鼻腔炎に限らず、圧迫で痛みが起こることがあります。
鼻づまりなどの鼻の症状、炎症の前兆などでも痛みます。
あるいは眼精疲労などが反映していることもありますが、いずれにしても、圧迫して症状の軽減が期待できます。
①陽白は額にあります。
瞳孔を通る縦のライン上で、眉毛より親指1本分上にあるくぼみです。
②攅竹は眉毛の目頭側の端にあるくぼみです。
③四白は瞳孔を縦に通るライン上で目の下の頬にあるくぼみです。
④迎香はいわゆる小鼻の横にあります。
陽白、攅竹は副鼻腔の前頭洞に、四白は上顎洞に、迎香は鼻そのものにアプローチすると考えます。
陽白や四白の「白」はものの本によれば「明るい」とか「光明」とかの意味があるとされ、一般的には目への効能が考えられているようです。
実際に眼精疲労などで使用するツボではあります。
五行説を表にした「五行色体表(ごぎょうしきたいひょう)」
ひとまず上表から考えてみます。
この表は東洋哲学における五行説を表にした「五行色体表(ごぎょうしきたいひょう)」と呼ばれるものです。
五行説とはこの宇宙や世界が「木火土金水」の五つの要素から出来上がっているという考えです。
これによれば「肺」、「鼻」を司る「五色」は「白」です。
そして、それらのツボは副鼻腔の近くにあります。
陽白と四白の奥は副鼻腔で空洞です。
つまりそれらの「白」は呼吸器を司る「白」であり、「空白」の「白」ではないか、というのが個人的な見解です。
実際に四白は鼻詰まりの時に圧迫して鼻が通ることがあります。
ツボを考案した古代中国の先達は解剖学にも明るかった可能性が見えてきます。
そんな可能性をもったツボを含めたこれら4穴に刺激を加えます。
①陽白、②攅竹、③四白、④迎香のツボの押し方
陽白、攅竹、四白は手のひらを上に向け、親指で圧迫してみましょう。
迎香は、親指では圧迫しづらいので人差し指に中指を重ねて力を入れやすくして圧迫します。
いずれも心地よい痛みがあるくらいの強さで1回5秒程度の圧迫を一呼吸おいて3回行ってみましょう。
頻度は一応の目安なので、それぞれ快適な強さや頻度をみつけてみて下さい。
鼻と呼吸器の肺
続いて、鼻を含めた呼吸器を司る経絡から考えてみます。
上表によれば、今回取り上げる「鼻」は五行の「金」に属しています。
司る「五臓」は「肺」で「五腑」は「大腸」です。
鼻と呼吸器の肺は関連しそうなイメージがあります。
そして肺もそのものだけではなく、その周辺の呼吸機能全般を含めた概念が東洋医学的な「肺」です。
大腸との関連はあまりなさそうに思われますが、東洋医学的にはあると考えられています。
これには「五主」を絡めるとわかりやすいです。
「五主」の「金」は「皮毛」です。
つまり皮膚のことです。
人体の皮膚は折れ返って、口の中へ進入します。
そのまま気道の粘膜や消化器の粘膜へと移行しているのです。
そのため、呼吸器系・消化器系の状態は皮膚に現れます。
例えばアトピー性皮膚炎の患者さんは、喘息持ちであったり消化器も弱かったりということがあります。
東洋医学における、肺と大腸を五行の「金」としてセットで扱う発想は、実際の現象にマッチしていると言えます。
肺経と大腸経へのアプローチ法
さて、実際に肺経と大腸経へのアプローチを見てみましょう。
重要なツボはいずれも肘より先にあるとされています。
今回は取り上げませんが、足をめぐる経絡も同様に膝下に重要なツボが存在するとされています。
その理由として、手足の末端ほど感覚が鋭敏であることが知られています。
つまり、手足の末端は治療的な刺激にもよく反応と考えられるのです。
よって今回の経絡への刺激も肘より先を対象に行ないます。
まず、肺経ですが、肘の手のひら側で親指側を手首へ向かい、親指の先のというツボに終わる、というルートです。
この順で手の親指で圧迫していきましょう。
母指球は親指で指先側へさするようにすると良いです。
爪の横のツボ、少商は指で圧迫します。
フリクションのボールペンのゴム部分で刺激しても良いです。
これは他の経絡の爪の横のツボも同様です。
次に大腸経は人差し指の爪の親指側の縁の商陽(しょうよう)というツボから人差し指に沿って手首の親指側を通ります。
そのまま前腕の前と後ろの境目のラインを肘に向かって上がって肘にある曲池(きょくち)というツボにたどり着く、というルートです。
曲池は肘を曲げた時にできるしわの端にあります。
こちらも上記の順に圧迫して行きましょう。
人差し指にある商陽を圧迫し、そのまま指の付け根にある骨【中手骨(ちゅうしゅこつ)】を手首に向けてさすります。
続いて手首を通り、前腕の前と後ろの境目のラインを圧迫しながら肘まで行き、曲池を圧迫します。
以上が、鼻を含めた呼吸器に関連する経絡への刺激です。
このように、症状がある場所(今回は鼻)とそれに関連する経絡を刺激することで、より効果が期待できるのです。
これらのツボ・経絡の刺激でこの冬、呼吸器を健やかに保っていただければ、と思います。
ですが、過信は禁物です。
副鼻腔炎も状態が進むと手術が必要になるケースもあります。
症状が、月単位で長引く場合は医療機関の受診も考慮に入れる必要があります。
現代医学・伝統医学問わず、その時々でご自身にベストな選択をして、快適にお過ごしいただけたら幸いです。
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湯浅 陽介(ゆあさ ようすけ)
1974年富山県生まれ。あん摩マッサージ指圧師、はり師きゅう師の資格取得後、教員養成科にて同教員資格取得。東京八丁堀の東京医療福祉専門学校に専任教員として勤務。学科と実技の授業を担当。学校勤務の傍ら、週末には臨床に携わっている。
学校HP⇒ http://www.tokyoiryoufukushi.ac.jp/index.php
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養生ラボ編集部です。インタビュー取材、連載コラム編集など。