あん摩マッサージ指圧師、はり師きゅう師の資格を持ち、東京医療福祉専門学校に専任教員として勤務されている湯浅陽介さんによる連載コラムです。
眼精疲労と腰痛に対するケアについて
5月になりました。
我が国で年明けから続くコロナウイルス禍は依然、収まる様子がありません。
外出の自粛や、手洗いうがいなどの感染予防・拡大防止に個人で出来ることを行ないながら、待つしかありません。
外出自粛の一環で在宅勤務、いわゆるテレワークに切り替えた企業も少なくありません。
少し前に鍼治療で診た患者さんも本来は営業職ながら内勤の事務に従事しているとのことでした。
テレワークへの取り組みが早かった企業ではその期間がすでに2か月を超えようとしています。
在宅での勤務、というかえって慣れない環境でのデスクワークはオフィスでのそれに比べて負担が大きいという声を聞きます。
患者さんでも自宅の机は奥さんに譲り、自身は卓袱台で終日のパソコン作業ということで腰の痛みを訴える方がいました。
そこで今回は、眼精疲労と腰痛に対するケアを考えたいと思います。
東洋医学的なアプローチ、経穴(けいけつ)=「ツボ」を刺激
東洋医学的なアプローチということでは、経穴(けいけつ)、いわゆる「ツボ」を刺激することになります。
当然ですが、眼精疲労や腰痛という症状が現れている目の周囲や腰のツボの刺激を行ないます。
それに加えて目や腰に関わる経絡(けいらく)へも刺激をしていきます。
これは、東洋医学的には「気」といわれるエネルギーのルートとして捉えられるラインで、ツボ同士を結ぶものです。
これは全身をめぐっており、特に腕では肘より先、脚では膝より下に重要なツボが集まっているためそれらへの刺激が効果的だと考えられています。
では、どこを刺激してゆくのか見ていきましょう。
まずは眼精疲労についてです。
さすがに眼球そのものは刺激できませんので、その周囲を刺激することになります。
これには攅竹(さんちく)と太陽(たいよう)というツボを使います。
攅竹は眉毛の内側の端です。
小さいくぼみが触れられると思います。
太陽は、眉毛の外側の端と目じりを結んだ線の中央から親指1本分後ろです。
いわゆるコメカミにあたります。
この2点を、親指で気持ちよく感じる強さで圧してみましょう。
特に時期が時期なので、刺激の前後には石鹸での手洗いをしっかりと行ないましょう。
攅竹(さんちく)と太陽(たいよう)というツボの押し方
そして、腰に対しては腎兪(じんゆ)というツボとお尻の筋肉をほぐすように刺激します。
腎兪はウエスト辺りに手を当てた時に親指が当たる場所です。
腎兪を親指で圧迫します。
やはり心地よい強さで圧迫します。
続いてお尻の筋肉です。
こちらは手でグーを作ってグリグリと刺激します。
以上が症状のある部に対する刺激です。
続いて、経絡から見て行きます。
眼精疲労について、東洋哲学の陰陽五行説から考える
経絡は東洋医学における内臓、六つの臓と腑を司るもので全部で12あるとされます。
臓と腑はそれぞれ陰陽五行(後述)に分けられており、それぞれ下表のようになります。
これらの経絡を症状ごとに、東洋医学的な観点から選択し、刺激します。
眼精疲労については、東洋哲学の陰陽五行説から考えます。
陰陽五行説は、すべてのものが陰と陽からなる、という「陰陽論」と、同じく「木・火・土・金・水」の5つからなるという「五行説」を総合したものです。下表に示します。
目を司る内臓・臓腑(ぞうふ)は「肝」と「胆」
目を司る内臓・臓腑(ぞうふ)は「肝」と「胆」です。
それらにはそれぞれ経絡があります。
それが「足の厥陰肝経(けついんかんけい)」(以下「肝経」)と「足の少陽胆経(しょうようたんけい)」(以下「胆経」)です。
肝経は足の親指の爪の小指側の縁から内くるぶしの前を通ってすねの骨の内側の真ん中を上がっていきます。
胆経は目じりから始まり、複雑なルートを辿りますが、刺激の利便性を考慮して膝から下の流れを紹介します。
これは膝の外側の腓骨頭(ひこつとう)という骨の出っ張りの前から、脚の外側のほぼ中央を下りて行きます。
外くるぶしの前を通って、足の第4指(手の薬指にあたる)の爪の小指側の縁に終わります。
これら、肝経・胆経をそれぞれのルートに沿って親指で圧迫していきます。
①肝経
まず、肝経です。
足首の内くるぶしの前から始めます。
親指での圧迫です。
少しずつずらしていきながら、膝に向かって行きます。
すねの骨の内側の真ん中を上がっていきます。
膝を曲げた時にできるシワの端まで圧迫して終了です。
②胆経
次に胆経です。
膝の外側の下にある、腓骨頭の前から圧迫し始めます。
そのまま、ほぼ下腿の外側の真ん中を下りていきます。
外くるぶしの斜め下辺りまで圧迫して終了です。
続いて腰痛について見ていきます。
腰痛に対するケア法
東洋医学の最古の書物、『黄帝内経(こうていだいけい)』では「腰は腎の府」である、と言われています。
腰は腎が司る大事な場所である、という意味です。
ここから足の少陰腎経(しょういんじんけい)(以下「腎経」)と前出の経絡の表から、これと陰陽のセットである足の太陽膀胱経(たいようぼうこうけい)(以下「膀胱経」)への刺激が有効であると考えることができます。
腎経は内くるぶしの後ろからふくらはぎの内側の後ろ寄りを上がって行き、膝の裏の内側を通っていきます。
③腎経
腎経は内くるぶしの後ろから圧迫を始めます。
そのまま上にずらしながら圧迫していきます。
膝の裏の内側まで圧迫して終了します。
続いて、膀胱経です。
④膀胱経
この経絡は膝の裏の真ん中からふくらはぎの後ろの真ん中を通り、外くるぶしの後ろを下りていきます。
圧迫は膝の裏、中央から始めます。
そのまままっすぐ下りて行きます。
そのままふくらはぎの筋肉の膨らみが終わるあたりからアキレス腱の外側へ移り、外くるぶしの後ろまで圧迫して終了です。
以上が眼精疲労と腰痛へのツボと経絡を用いたケアです。
ちなみに膀胱経の外くるぶしの後ろには崑崙(こんろん)というツボがあります。
「気を下げるツボ」として用いる先生もいます。
この状況下で不安であれこれ考えて気が上がってしまった状態にも効果があると考えられています。
まずは手洗い・うがいなどの標準的な予防策を継続しながら、これらのケアが少しでもみなさんのお役に立てばと思います。
そして、一日も早くこの状況が収束することを祈っています。
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湯浅 陽介(ゆあさ ようすけ)
1974年富山県生まれ。あん摩マッサージ指圧師、はり師きゅう師の資格取得後、教員養成科にて同教員資格取得。東京八丁堀の東京医療福祉専門学校に専任教員として勤務。学科と実技の授業を担当。学校勤務の傍ら、週末には臨床に携わっている。
学校HP⇒ http://www.tokyoiryoufukushi.ac.jp/index.php
学校FB⇒ https://www.facebook.com/tokyoiryofukushi/
学校ツイッター⇒ https://twitter.com/tif8chobori
養生ラボ編集部です。インタビュー取材、連載コラム編集など。