脳内物質オキシトシン研究の第一人者であり、脳や胃腸の分野で米国で最先端の研究を20年続けた「クリニック 徳」院長の高橋徳さんにお話を伺っています。
【オキシトシン最新情報】
『病は気から』と昔から言われていますが、本人の気持ちの持ち方次第で、病は善くも悪くもなります。
その背景にオキシトシンが深く関わっています。先日、大阪の経済界の集まりに呼ばれてそんな話もしてきました。
今、分かっているオキシトシンの生理作用です。
ー視床下部からオキシトシンがでるとー
1.視床下部でCRFを下げて抗ストレス作用
2.側坐核でセロトニンを上げて抗うつ作用
3.扁桃核でGABAを上げて抗不安作用
4.自律神経系では孤束核でノルアドレナリンを下げて自律神経調節
5.中脳水道周囲灰白質でオピオイド(脳内麻薬)を上げて鎮痛作用
などが、医学的に解明されています。
最近いろんなこと(瞑想、踊り、気功など)をやって、その前後でオキシトシンを測っています。
瞑想
富士山「心のケア合宿」で一緒にコラボしている僧侶の町田宗鳳先生(広島大学名誉教授、御殿場市ありがとう寺住職)が、『ありがとう』と発声して、感謝をしながら瞑想するという方法を発案されています。
その瞑想(ありがとう禅)を32人にしてもらい、唾液中のオキシトシンを測ってみたことがあります。
これはどういう瞑想かというと『ありがとう』と言う誰かを特定して、本当に『ありがとうございます』、という感謝の気持ちで瞑想をします。
自分のことはさておいて、他人のことを思うとオキシトシンが上がります。昨年のシリーズでもボランティアの話をしましたがそれと一緒です。
普通はどこかの神社に行って「お金持ちになりますように」「家内繁盛」など自分のことをお願いするのが多いですよね。あるいは家族が幸せになりますようになど。
そのよう利己的な祈りは、結局は自分のためにはならないのかも知れません。
祈るのであれば、他人の事を想う、そうするとオキシトシンがでて、結果的に自分自身が心身ともに幸福になります。そのような発想が大事になってきていると思います。
まず32人に集まってもらい唾液をとり、1時間瞑想します。1時間後、また唾液をとり測ります。
結果は、瞑想前(66.3 pg/ml)に比較して 瞑想後(90.6 pg/ml)では、有意に増加していました。英語の論文にして医学雑誌に投稿したところ、掲載の許可がでました。
この論文は『他の人の幸せを想うような、「利他の気持ち」をもつことで、オキシトシンの放出が刺激される』という世界初のエビデンスになります。
将来的には、統合医療の考え方を駆使して、様々の治療方法を編み出していきたいと思っています。「踊り療法」っていいんじゃないかと思います。
踊りというのは体を動かすこと、音楽を聴くこと、この運動と音楽の両方の良いところがあり、みんなで楽しみながら、健康になれると考えられます。
それで「郡上踊り」を試してみました。
「郡上踊り」のエキスパート10人を集めて一時間踊ってもらいました。そしてその前と後でオキシトシンの量を測ったのです。
踊りの前では79.1pg/ml だったのが、踊りの後では95.9 pg/ml まで上昇していました。
なんと、10人中8人が上っていました。これも統計学的に有意の差がありました。
踊りが良いのはからだの運動にもなることです。楽しく踊ったら、オキシトシンが上がってみんな元気になります。こんな発想で、将来みんなでワイワイ踊ればいいと思っています。
ただこれは踊りが好きな人でないとダメなんです。
例えば、「郡上踊り」を初めて経験してこんなの嫌だ、なんて気持ちになっちゃうとオキシトシンは上がらないはずです。
とにかく、好きなことをみんなで楽しむということですね。一人で踊ってもいいかもしれないけど、みんなで楽しく踊ることが大切です。他の踊りでも試してみようと思っています。
アロマセラピー
アロマセラピーはマッサージをしながら、色々な香料を嗅いでもらいます。
これは匂いと触覚の刺激だから普通のマッサージより、オキシトシン刺激には、効果的ではないかと思っています。
アロマセラピーの前後でもオキシトシンを測りました。総勢47人で、1回目は8割くらいの人で上がりました、2回目は残念ながら半々くらいでした。
どうして、こんなバラついた結果が出たのか、その原因はよくわかりません。
アロマセラピーで本当に気持ちいいなと思った人、どうかなと思った人、色々いると思います。それを今、インタビューして聞いたりして検討しています。
アロマの学校でやったので、受けた人達が学生さんが多かったです。先生がアロマをするわけで、それを受ける学生さんはやっぱり緊張しますよね。
『私の尊敬してる先生だから、ちょっと気持ちよくなったほうがいいのかな?』と、ある種のプレッシャーです。
このようなことがあったかもしれないので、参加者の選び方を少し間違えたかなと思ったりもしてます。
面白い事も発見しました、アロマセラピーの施術をしている方(施術者)です。
7人中6人の施術者でオキシトシンが上がっていました。これは非常に大事なことで、施術している方も『お客さんを幸せにしよう、気持ちよくさせよう』という思いがあればあるほど、オキシトシンが出るんです。
ところが、『時間給1000円で半分やったからあと30分すれば、500円儲かる』などと思ったりしていたら、オキシトシンは上がらないです。
機械的にやると相手側も感じますから、気持ちもよく思わないだろうし、やっている方も疲れてしまいます。
今のところ有意差がしっかり出ているのが瞑想と「郡上踊り」です。気功やヨガでもオキシトシンが結構上がっています 。
論文に仕上げるためには統計学的な有意差検定ということをやらないといけないので、有意差を出すところまでは、なかなかしんどいんですが、上がっている傾向があるのは間違いないです。
『補完代替医療はエビデンスが少ないと』いう批判をよく耳にしますが、このようにオキシトシンが上がっているというデータがあれば説得力もあがります。
将来的には「オキシトシン研究所」みたいなものを作りたいと思っています。そのうちに日本中から『オキシトシンを測って欲しい』と依頼されるようになれば、嬉しいです。
現在、甲状腺ホルモンやインシュリンなど、いろんなホルモンを病院で測ることができます。
将来的には「ストレスチェック」の1項目にオキシトシンを入れて、その測定結果を診断の一助にできたらいいですね。そんなことを夢みています。
うつ病の人に オキシトシンのスプレーを使うという動きもありますが、そうではなくてスキンタッチしたり、瞑想してみたり、という治療法があってもいいんじゃないかと思います。
いわゆるSSRI (抗うつ剤)ですが、この薬を飲むとセロトニンが増えるので、その結果オキシトシンも増えるということは理論的には考えられるかもしれません。ただSSRIには副作用が多いです。
一方で、瞑想、踊り、気功、ヨガなどには副作用はないですから安心です。
オキシトシンを切り口にして「うつ病」の治療も変わってくるんではないか、そんな将来を見据えて、いろいろ試行錯誤しながらですが、いろいろ試しています。
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高橋徳(たかはし・とく)
1977年、神戸大学医学部卒業。関西の病院で消化器外科を専攻した後、88年米国にわたる。ミシガン大学助手、デューク大学教授を経て、2008年よりウィスコンシン医科大学教授。
米国時代の研究テーマ「ストレス」を研究していく過程で、オキシトシンと出合う。以降、10年以上にわたりオキシトシンの研究を行い、アメリカでオキシトシンに関する論文を発表。
帰国した後、国内のオキシトシン研究の第一人者として、日々研究を続ける。
13年には、郷里の岐阜県で統合医療クリニック「高橋医院」を開業。
16年、名古屋市に分院「クリニック徳」をオ—プン。
主な著書に、『人のために祈ると超健康になる! (米国医科大教授の革命的理論)』(マキノ出版)『自律神経を整えてストレスをなくす オキシトシン健康法』(アスコム)『人は愛することで健康になれる (愛のホルモン・オキシトシン)』(知道出版)、『あなたが選ぶ統合医療: 古今東西の叡智が命を守る』(知道出版)。
養生ラボ編集部です。インタビュー取材、連載コラム編集など。