あん摩マッサージ指圧師、はり師きゅう師の資格を持ち、東京医療福祉専門学校に専任教員として勤務されている湯浅陽介さんによる連載コラムです。
風邪を引きにくくするための取り組み
令和2年を迎えました。年末年始モードからの切り換えは上手くいっているでしょうか。
長い休みには生活が不規則になりがちです。
なかなか日常生活のリズムがつかめないこともあると思います。
さらに冬の寒さも一段と厳しくなる1月。
風邪などひいて、スタートからつまずくなんて言うことは避けたいものです。
生活リズムをいきなり日常モードに戻すことはできませんが、この季節に風邪を引きにくくするために取り組めることをみてみましょう。
冬は乾燥によって喉に痛みが出やすい時期です。
加湿器の使用やマスクの着用などの予防策を講じた上で、東洋医学的なケアを考えてみましょう。
東洋医学ではツボを要所としてと呼ばれるルートが想定されています。
陰陽と臓器、いわゆる五臓六腑の名を冠した経絡が12あるとされています。
下表に示す通りです。
経絡は世界が陰と陽からなるという「陰陽論」と、「木」「火」「土」「金」「水」の五行からなるという「五行説」を取り入れた「陰陽五行説」に基づいています。
「五臓六腑」なのに12の経絡が存在するのは、上表の「五行」が「木火土金水(もっかどこんすい)」に加えて「相火」があるからです。
「火」が主る「心」は現代医学同様に重要な臓器です。
よって「心」は「君主の官」と呼ばれます。
そのため「心」の「火」は「君火」とされ、「心」を包む心膜を指すとされる「心包」は「宰相」とされ、その「火」は「相火」とされる訳です。
このように陰を司る6つの臓と陽を司る6つの腑にそれぞれ経絡があり、全部で12あります。
そのうち、呼吸器、特に喉に関連するとされる経絡がいくつかあります。
中国最古の医学書とされる『黄帝内経(こうていだいけい)』によれば、
・「手の太陰肺経(たいいんはいけい)」
・「手の陽明大腸経(ようめいだいちょうけい)」
・「足の陽明胃経(ようめいいけい)」
・「手の太陽小腸経(しょうちょうけい)」
・「足の少陰腎経(しょういんじんけい)」
・「手の少陽三焦経(しょうようさんしょうけい)」の6つとなります。
呼吸器に何らかのトラブル
「手の太陰肺経」は文字通り肺に関係する経絡です。
また、東洋医学における肺は現在の臓器としての肺のみならず、呼吸の機能全般、気管や気管支、鼻までも広く含めて考えます。
そして呼吸器に何らかのトラブルが起これば、この経絡に異常が現れますし、逆に経絡へのケアで呼吸器の状態の改善が期待できるとされます。
続いて前出の表にあるように五行の「金」の陰を司る「肺経」に対し、その陽を司っているのが「大腸経」です。
これも肺をめぐっていて、トラブルがあると喉に不調をきたすとされます。
続く「足の陽明胃経」は胃を司りながら喉にも通っているとされており、これもトラブルを起こすと喉の不調をきたします。
同様に「手の太陽小腸経」も小腸に属しながらを通ります。
これまでの「喉」ではなく「咽」なのでもう少し上の、鼻と口の奥の交差点のようなイメージになります。
現代医学的に言うといわゆる喉はで気管の入り口、咽はで鼻の奥と口の奥の合流点という感じです。
風邪などで「のどが痛い」と言ってもやや上のほうが痛むのが咽頭の炎症、もっと奥が痛むのが喉頭の炎症による痛みです。
そして「足の少陰腎経」は腎に属しながら肺を経て喉をめぐります。
腎経と喉の関連はそれだけではありません。東洋医学における腎は現在の「腎臓」とは異なり腎臓を含めた水分代謝機能も含めています。
腎臓は尿を作って膀胱へ送るだけのように思われますが、必要な水分を体内に再吸収する機能もあります。
【五行の表】「五臓」とそれぞれが苦手とする「五気」の対応
上表は五行の表で、「五臓」とそれぞれが苦手とする「五気」の対応を示しています。
「金」に属する「肺」は「燥」つまり乾燥に弱いわけです。
肺は、息を窓に吹きかけた時に曇るように、湿った臓器です。
そのため乾燥には弱く、冬には風邪が流行ります。
そして「腎」は水分を体内に再吸収し、肺を含めた身体全体を潤すのです。
腎経は経絡の流れの側面と、東洋医学における人体生理の側面の両面から、喉に重要なものと言えます。
三焦経のトラブル
最後に喉に関連するのが「手の少陽三焦経」です。
『黄帝内経』には三焦経が喉を通る直接的な記載はないものの三焦経にトラブルがあると喉の腫れや痛みが現れるとされています。
三焦とはなじみがない言葉ですが、東洋医学では「気(き)」や「津液(しんえき)」の通路とする考えと身体を水平に3分割した「上焦(じょうしょう)」、「中焦(ちゅうしょう)」、「下焦(げしょう)」の総称として三焦をとらえる考えがあります(下図)。
「気」や「津液」というと怪しげな感じですが、心身を動かすエネルギーを「気」、血液を除く体液を「津液」くらいに受け止めれば良いです。
この見方では三焦は通路として身体全体に作用するものとしてとらえられます。
つまり機能的な側面を見ている、と言えます。
また、上焦は身体の横隔膜より上、中焦は横隔膜から臍まで、下焦は臍以下を指すとされます。
これは身体を三分割してとらえる考えで、構造的な側面を見ていると言えます。
現代医学では何を指すのか、は諸説ありますが、肺を包む胸膜が上焦、横隔膜が中焦、腹膜を下焦ととらえる人もあります。
確かにそれらが身体内部を分けており(構造的側面)、また横隔膜は呼吸に関与しますし、胸膜や腹膜は血管や神経が巡っているため内臓に影響力を持っています(機能的側面)。
個人的には説得力のある見方だと考えています。
ここまで、喉(咽)に影響のある経絡を紹介しました。
ここからはマスクや加湿といった喉のケアにプラスする経絡への刺激法を見て行きましょう。
喉のケアにプラスする経絡への刺激法
経絡はそれぞれに複雑なルートを持っていますが、最終的には重要なツボが肘先・膝下に集中しています。
セルフケアとしてはそれらの部への刺激が簡便と思われます。
実際の経絡が巡るルートとは異なりますが、手・足に分けてみていきましょう。
手の太陰肺経
手の太陰肺経は腕の手のひら側の面にあります。
肘の親指側から手首の親指側まで通っています。
そのまま母指球を経て親指の付け根に沿って爪の横の少商(しょうしょう)というツボに至ります。
この順番に手の親指で圧迫していきます。母指球は親指で指先側へさするようにします。
爪の横のツボ、少商は指で圧迫します。
フリクションのボールペンのゴム部分で刺激しても良いです。
これは他の経絡の爪の横のツボも同様です。
手の陽明大腸経
手の陽明大腸経は人差し指の爪の親指側の縁にあるというツボから人差し指に沿って手首の親指側を通りちょうど前腕の前と後ろの境目のラインを肘に向かって上がりというツボに至ります。
曲池は肘を曲げた時にできるしわの端にあります。
まずは人差し指の縁の商陽を圧迫し、そのまま指の付け根にある骨(中手骨と言います)を手首に向けてさすります。
そのまま手首を通って前腕の前と後ろの境目のラインを圧迫しながら肘まで行き、曲池を圧迫します。
手の太陽小腸経
手の太陽小腸経は小指の爪の親指と反対側の縁にあるというツボから、ちょうど腕の前と後ろの境目のラインを手首に向かい、そのまま肘まで上がります。
肘の出っ張りの小指側のというツボに至ります。
初めに小指の爪の縁、少沢の圧迫です。
その後、手の小指側の縁を手首に向かってさすります。
そのまま前腕の前と後ろの境目のラインを圧迫しながら肘まで上がります。
肘にあるのは小海というツボです。
ここは尺骨神経という神経が通るところでもあり、ぶつけて腕がしびれた経験をお持ちの方もあると思います。
ここは付近を圧迫し、小海そのものは圧迫しないようにしましょう。
手の少陽三焦経
手の少陽三焦経は薬指の爪の小指側の縁の関衝(かんしょう)というツボから始まりそのまま薬指の小指側のラインを上がり手首の手の甲側の中央を通ります。
そのまま前腕の中央を肘まで上がります。
こちらは薬指の関衝を圧迫、そのまま薬指の付け根の中手骨をさすり、手首の中央を圧迫します。
続いて前腕の中央を圧迫しますが、親指では難しいので親指を前腕の手のひら側に当て、支えにして残る四本の指で押していきます。
肘の骨まで至って終了です。
足の陽明胃経
続いて足の陽明胃経は膝のお皿の下にある外側のくぼみの犢鼻(とくび)というツボから下へ行きます。
そのまま足首の前の中央を通り、足の第2指(手でいう人差し指)の小指側を目指します。
第2指爪の小指側の縁にある厲兌(れいだ)というツボに至ります。
まずは膝のお皿の下の犢鼻を圧迫し、そのまま脚を下りていきます。
足首の中央を圧迫したら、足の第2指と第3指の間の第2指寄りを指へ向かってさすります。
最後に爪の縁の厲兌を圧迫しましょう。
足の少陰腎経
足の少陰腎経は足の裏のというツボから始まります。
足の指を折り曲げたときに足裏の前のほうにできる窪みがそれです。
そこから内くるぶしの後ろを通ってそのまま膝まで上がります。
膝裏の内側のスジの外側にあるというツボに至ります。
最後の腎経の刺激は足裏の湧泉への圧迫です。
両手の親指を重ねて圧迫するとやりやすいです。
そこから内くるぶしの内側を目指して圧迫していきます。
その後、ふくらはぎの内側を圧迫し、膝裏の陰谷を圧迫します。
以上のように呼吸器、特に喉に関する経絡への刺激を行います。
これらの刺激は入浴時に湯船の中で温まっている間に行なうとやりやすく、時間の節約にもなります。
通常のケアに加えて行なって厳しさを増す冬の寒さを乗り越えてください。
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湯浅 陽介(ゆあさ ようすけ)
1974年富山県生まれ。あん摩マッサージ指圧師、はり師きゅう師の資格取得後、教員養成科にて同教員資格取得。東京八丁堀の東京医療福祉専門学校に専任教員として勤務。学科と実技の授業を担当。学校勤務の傍ら、週末には臨床に携わっている。
学校HP⇒ http://www.tokyoiryoufukushi.ac.jp/index.php
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養生ラボ編集部です。インタビュー取材、連載コラム編集など。