「自然栽培」土が人を育てる 「奇跡のリンゴ」木村秋則氏

私たちが食べているものはすべて土から生まれたといっていい。

動物も、魚も、植物も……源をたどれば、土に行き着く。

小動物や虫、ミミズなどの住処となり、目には見えないが、1グラムの豊かな土のなかには、数千、数億ともいわれる微生物がいるという。

その不思議は、まだほとんど解明されていない。自然栽培では、肥料と農薬に頼らずに、土本来の力を活かして、作物を育てる。

命の力を発揮させるその考えと技術は、農業はもちろんあらゆる分野で誰もがすぐにでも活かすことができる。

進化し続ける「自然栽培」のすべてを木村秋則さん自身のことばで伝えるシリーズ第8回目。

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土が人を育てる

たくさんの菌が競争するから特定の菌が広がらない

私のリンゴ畑では、今年もリンゴがたわわに実っています。毎年、よくこんなに実るなぁと感心します。

ただ、今年の津軽地方ではリンゴの黒星病が広がり、大きな被害が出ました。

黒星病は、最初は小さな黒い斑点が葉っぱや茎に出て、それが果実にも広がり、ひどくなると病斑部分からリンゴが割れてしまいます。

せっかくのリンゴが商品にならないという、農家にとって恐ろしい病気です。

黒星病の菌は、木の枝や土のなかで越冬して暖かくなると活発になります。今年は雪解けが例年より早く、春先から暖かかったので、菌の活動が早かったのです。

慣行栽培のリンゴ農家は菌の広がりを防ぐために農薬撒布を繰り返しましたが、抑えきれませんでした。

では、私のように農薬を使わないリンゴ畑はものすごい被害にあっているに違いないと誰もが思うでしょう。

もちろん被害はありますが、それほど多くはありません。慣行栽培と比べても少ないくらいです。

農薬を撒いても蔓延する黒星病が、なぜ無農薬なのに少ないのでしょうか。

私のリンゴ畑を見学にきた農業関係者は、実っているリンゴのすがたに、「うーん」と言ったきり押し黙ってしまいました。

私は、やはり土に秘密があると思っています。

私の畑の土は、慣行栽培の畑に比べて微生物が多く、とくに菌根菌が多いということが、横浜国立大学の土壌生態学研究者である金子信博先生の調査でわかりました(P69〜75)。

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これは私の考えですが、一般の農地では、肥料や農薬を使うため、土のなかの菌の種類も数も少ない。

つまり、競争相手が少ないので、ある強い菌が発生するとその菌の天下になってしまう。

ところが、私のリンゴ畑のような自然栽培の農地には、さまざまな菌が数多くいるために特定の菌が一人勝ちできないのではないかと思うのです。

このことは、長年にわたり私の畑の研究をしている弘前大学農学生命科学部の杉山修一先生による植物の内生菌研究にも通じます。

杉山先生は、やはりリンゴの病気として知られる褐斑病が私の畑ではあまり広がらないことについて、リンゴの葉の内生菌が多いことを発表しています。

土の菌、植物の根にいる菌、葉にいる菌、これらはきっと関係があるはずです。

土を知ることからはじまる

リンゴが10年近くまったく実らず、もうダメだとあきらめかけたときに気がついたのが、「土」でした。

作物のことだけを見ていては決して見えてこないのが、土のなかの世界です。

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畑をはじめるときに、「自然栽培は肥料を入れずに大豆を播く」と考える人がいますが、それではマニュアルに頼る慣行栽培となにも変わりません。

大事なのは、まず、自分の田んぼや畑の土の状態をよく見ることです。

作付けしようとしている農地には、どんな草が生えているでしょうか?

道路工事や造成工事をしたときの土を見てください。法面は強酸性。それを中和するために必要な草が生えているはずです。

まず、珪酸を含むササやススキなどイネ科の雑草。また、荒れ地に繁殖するスギナ(トクサ科)は珪酸のほかにカルシウムも多く含んでいます。

スギナは、茎のなかに穴が空いていて、土に空気を送る役割も果たしています。イネ科の草が生えたあとには、ヨモギのようなキク科。

そして、だんだん丸い葉っぱ、広い葉っぱの雑草が生えてきます。

カラスノエンドウなどの豆科の草が生えているところでは土はそれなりに豊かになっています。

いろんなタネが飛んでくるはずなのに、荒れ地にはなぜか最初にイネ科の雑草やスギナが生えてくるのです。

草は土の状態を教えてくれます。草は土をつくっています。そして、1センチの表土がつくられるのに百年かかるといわれています。

自然栽培は、単なる無肥料・無農栽培ではありません。どうすれば土を活かすことができるのか、それを考えるところからはじまります。

治す力。土の無限の可能性

1グラムの肥沃な土のなかには数億の微生物がいるともいわれていて、このなかには良い菌も悪い菌も含まれています。

この菌のなかには、病気を抑えるはたらきをするものがあります。

たとえば、リンゴには腐乱病という、ひどくなると木を枯らしてしまう病気があります。慣行栽培では殺菌剤を使いますが、昔のリンゴ農家は泥を使って治しました。

まず、できるだけ近場で、草の種類が多いところの土をとってきて泥をつくる。腐乱病の出たリンゴの樹皮に泥を塗ってビニールを巻く。

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水分の多い泥には嫌気性(酸素を嫌う)の菌がいます。

これが、リンゴの皮を形成しているセルロースを分解します。セルロースが分解されて初めて、今度は腐乱病の菌を抑える好気性(酸素を好む)の菌がはたらくのです。

ビニールを巻いて嫌気な状態にしますが、ビニールに穴を空けておくことで、時間が経つにつれて乾燥し、好気性の菌が活躍しだします。

一年くらいすると、腐乱病が治り、新しい樹皮ができてきます。

これは堆肥づくりと似ています。

生の有機物を堆肥化するときは嫌気性菌のはたらきからスタートして、切り返すことによって好気、また嫌気……と繰り返し、有機物が分解して堆肥になっていくからです。

2015年のノーベル生理学・医学賞を受賞したのは、土のなかの放線菌から生まれた研究(*)でした。

土にはまだまだわかっていない可能性がたくさん秘められているのではないかと思います。

(*)2015年ノーベル生理学・医学賞は、大村智博士とウイリアム・キャンベル博士による、土のなかの放線菌(Streptomyces)発見から生まれた「線虫感染症の新しい治療法」だった。


自然栽培Vol.8より転載させていただきました。

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by ヨメレバ
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