看護師や療法家を含む医院・施設専属のクリニカルアロマケアチーム タッチケアサービスさんによる連載コラムです。
「バースレビューと産後ケア」
バースレビューという言葉をご存じでしょうか。
バースレビューとは出産の振り返りの事を言います。
まだまだ知らない方も多いと思いますが、出産の振り返りを行うところも増えてきており大切なケアの1つとして考えられています。
出産はとても大きな喜びを感じるとともに、喪失感を伴うこともよくあります。
また、出産を終えた時の気持ちも人それぞれ違います。
これからより重要性が求められるであろうバースレビューについて少しお話していきたいと思います。
~バースレビューとは~
バースレビューとは、自分自身の出産体験の振り返りの事をいい、出産想起とも言われます。振り返りを行い、前向きに自分自身と向き合うことで出産体験を自分のものにすると言われています。
バースレビューは、産後2~3日以内の間に出産に関わった医師や助産師と共に振り返りを行うことが良いとされており、出産の時に感じた素直な気持ちを言葉にしたり、書いたりして振り返っていきます。
産後すぐの時期や、特に2~3日は出産時の記憶が鮮明に残りやすい時で、どの様な出産だったのかを話したくなったり、出産の時の経験を話したいと思う気持ちが湧き出てきやすい時とも言われており、感情を表出し話ができる機会があることは産後の女性にとって重要な時間であると考えられます。
【バースレビューの意義】
自分自身の出産の感想を聞かれ、「すごく良いお産ができた」「とても感動した」と思う人がいる一方で、「こんなに辛いと思わなかった」「想像していたお産とは違い、思い出すのも辛い…」など、出産に対し悲観的・否定的などの体験として訴えられる人も少なくありません。
様々な研究によると、自身の出産に対しネガティブなイメージを持ち続ける事は、その後の子育てさらには母親としての自身の役割にまで影響を与える可能性があるとも言われています。
振り返りを行うことにより、様々な感情を知ることは、命がけで頑張った自分を知ることにもなり、出産を肯定的なものとして捉える事にも繋がりやすいと言えるでしょう。
産後の女性にアロマトリートメントを行っていると、自分のお産はこうだった・実はこんなことがあって…などとお話をして下さる方が多くいますが、中にはあまり思い出したくない、お産が辛く言葉で表現できないと感じている方もいます。
振り返りを行い、感情を吐露することで、気持ちが楽になり前に進むための一歩に繋がる人がいる反面、振り返りでさらに傷ついてしまう人もいるのではないでしょうか。
出産でとても辛い経験(トラウマにつながるような体験)をした人に、産後すぐにその出来事を思い出し言葉にすることはさらに傷を深めることにつながりかねません。
何よりも、専門的な知識が必要になり安易に振り返りを行うことはできません。
ただ、深い介入ができなくとも、静かに傍に寄り添うことや、少しでも安心そして心を落ち着かせるためのお手伝いはできるのではないかと思います。
~からだとこころに触れるケア・タッチングの有効性~
コミュニケーションの方法は実に様々ありますが、いざ「お話してみて下さい」と言われてもなかなか自分の思いを表出できない人は多いと思います。
私が普段産後の女性に行っているアロマトリートメント=タッチングは、非言語コミュニケーションの1つでもあります。
もちろん産後の女性たちの思いに静かに耳を傾ける時間は、私自身とても大切だと感じています。
しかし産後の疲れの程度や産後の経過も人それぞれ違ってきますし、赤ちゃんのお世話も待ったなしで始まります。
そんな時こそ心地よい優しいタッチングは、言葉にできない思いを表出するきっかけの1つになることがあります。
人は心地よいと感じるとき、人の温かさに触れたとき、不思議と素直な感情が芽生えてきたり、なんとなく気持ちが穏やかになっていく事があります。
産後眠れなかったり、不安でいっぱいの女性にアロマトリートメントを受けてもらうと自然と表情が穏やかになったり、今まで抑えていた感情が涙とともに溢れ出てくる姿をこれまでたくさん見てきました。
人は緊張や不安が続いてしまうと、過緊張(交感神経が優位な状態)になり心だけではなく体にまで影響が出やすくなります。
交感神経が優位な状態が続くと、血管が収縮し体の冷えにもつながります。
冷えが続くことは交感神経が優位な状態になりやすい為、副交感神経への切り替えがうまく行えずリラックスしにくい状態になってしまいます。
温かな手のぬくもりを大切にするアロマトリートメントは、体をとても温めてくれます。体が温まることは同時に、疲れてしまった心もそっと温めてくれるのではと思います。
バースレビューはその重要性が求められているケアの1つですが、確実な方法が確立されていない点があります。
また重要性を感じながらも忙しい現場の中で時間を確保する難しさもあります。
そして何より、出産による疲労や喪失感が強かったり深く傷ついてしまった女性にとって産後すぐの振り返りを行うことの難しさなどもあります。
その人が話したい・聞いてほしいと思った時がタイミングであったり、話ができるまで時間が必要な時もきっとあるでしょう。
たった1度きりの振り返りではなく、その人のタイミングに合わせられる柔軟性がこれからは必要なのかもしれません。
アロマトリートメントというタッチングを通して、どんな時もそっと傍にいて寄り添える存在でありたいといつも思っています。
タッチケアサービス 館山 亜希
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タッチケアサービス
看護師や療法家を含む医院・施設専属のクリニカルアロマケアチーム。出産直後の患者、延べ15.000件以上の症例等を保有。
西洋医学・東洋医学両視点からのケアを深めるための講座を開催。現場に則した内容の講義講座や勉強会を行う。
クリニカルセラピストを目指す方、セラピストとして学びを深めたい方、また各療法家、医療従事者すべての方が対象で理論だけにとどまらず実践的かつ専門的に学んでいる。
また、様々なかたちで生活に取り入れやすいホリスティックライフ実践のための提案・ケアを一般対象にも行っている。
【touch care services lesson】
産院専属セラピストチームから産後ケアを学ぶ、年4回のホリスティック産後ケア講座開講中
詳細・問い合わせはタッチケアサービスHPまで → http://www.touchcare-s.com
養生ラボ編集部です。インタビュー取材、連載コラム編集など。