あん摩マッサージ指圧師、はり師きゅう師の資格を持ち、東京医療福祉専門学校に専任教員として勤務されている湯浅陽介さんによる連載コラムです。
自身の心身の姿勢を見直す
多くの方が感じる不快な症状に「肩コリ」があります。
固くなった筋肉をほぐそうと揉む方もいると思います。
もちろん、心地よい範囲で揉んだり叩いたりという刺激を与えるのは構いませんし、マッサージやはり・きゅう、その他の物理療法を活用するのも良いでしょう。
しかし、この「養生ラボ」をご覧のみなさんならば「養生」に関心があることと思います。
本格的に何らかの治療が必要となる前に自らの手で、自らの心身を守ることが本道と考えられます。
かの貝原益軒も『養生訓』で「養生の道は病でない時に(諸々の欲を)慎むことにある。
病が起こってから薬や鍼灸で立ち向かうのは養生の最も低いレベルである。
(欲を慎むという養生の)本質に努めよ(筆者意訳)。」という旨の記述を残しています。
「自分の身の健康は自分で守る」という意識
そこで今回は、肩コリに対するセルフケアの紹介です。
私自身は、はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師です。
それらの知識・技術を学校で教えることをメインとしながら細々とですが患者さんと向き合う時間を持ってもいます。
そんな中で感じるのは、「自分の身の健康は自分で守る」という意識の不足または欠如です。
逆にそういう意識を持った患者さんは、こちらがアドバイスする方法でセルフケアをしてくれます。
その結果、来院回数が劇的に減少したり、治療に来ても以前より遥かに良い状態だったりします。
経営的には良くないのかもしれませんが、患者さんにとっては喜ばしいことです。
私が頸コリ・肩コリの患者さんにアドバイスしている方法は、こっている所へのアプローチではありません(こっている所へはアドバイスなしでも皆さん揉んだり叩いたりします)。
東洋医学には「陰陽論(いんようろん)」という事物の見方があります。
中国哲学と一体となって形作られた東洋医学ならではの視点と言えます。
ですが、何も特別なものではなく、決してブランディングされたり神秘化されたりするようなものではありません。
生活なり人生なりに活用できる知恵の1つ、くらいに捉えていただければ良いです。
話を戻すと、その陰陽論は物事に陰と陽の2つの側面を見出す考え方です。
たとえば物事の表が「陽」なら裏が「陰」。
上が「陽」なら下は「陰」というものです。
人体ならば背中側が「陽」で腹側が「陰」となります。
しかし、これは固定化されたものではありません。
人が腹側を「上」に向けて寝そべった場合などはどうでしょう?
入り方としては陰陽は二元論的にとらわれがちですが、実際の現象をみると陰から陽、陽から陰に移り変わる様が観察されます。
人間の1日の活動が良い例になります。
朝に起床して、交感神経という活動に働く神経が活発化します。
夜には副交感神経という休息に働く神経の活動に移行します。
表現は違いますが、神経生理学的にも捉えられている現象です。
さて、この陰陽論で肩コリを見てみましょう。こるのは肩の後ろや肩甲骨の間などの背中側、すなわち「陽」の面です。
この時に表面化している肩のコリは「陽」的な要素になります。
これらへの揉む・叩くなどのアプローチは当然行なうとします。
そこに加えてその逆、腹側の「陰」の面に注目するのが東洋医学的な・陰陽論的な見方です。
デスクワークの姿勢を例にしてみましょう。
ディスプレイに顔を近づける姿勢を取り、入力作業で手のひらがずっと下を向いた格好になります。
パソコンを用いた入力作業だけでなく、台所仕事やものを書く作業など多くの動作が手のひらを下に向けた形で行なうものです。
前腕部につられて二の腕も内側に入って、さらに肩が前に巻きこまれた姿勢になります。
加えて顔が前に突き出た格好になります。
これを続けていると肩や背中・頸の後ろに張りやコリを感じます。
症状を感じている反対の面・鎖骨の下など胸の辺りや頸の前側の状態はどうなっていますか?
おそらく固くなっていたり、圧すと痛かったり気持ち良かったりするのではないでしょうか?
つまり、背面や頸の後ろという「陽」の部にコリという形で症状が顕在しています(陽的)が、胸や頸の前という「陰」の部が縮んで固くなっている状況が潜在している(陰的)のです。
ですから胸や頸の前の筋肉が縮み、顔や肩が前に引っ張られた結果、肩や頸の後ろにコリが現れる、と考えられるのです。原因は「陰」にありながら症状は「陽」に出現する、と言うわけです。
そうなれば、肩コリのセルフケアでそれらの部にアプローチしない手はありません。
肩コリに対するセルフケアのやり方
特に厳密に順番などはないですが、手先からアプローチしてみましょう。
前腕部の皮膚をデスクワークなどの作業時と反対向きに内側から外へねじるようにします。
手首側から始めて、少しずつ上にずらしながら、全体にねじりの刺激を加えます。
続いて二の腕も同様に行います。
そして、鎖骨の下や鎖骨と腕の境目にある骨の出っ張り(烏口突起:「うこうとっき」と言います)の周囲をグーでグリグリと揉みます。
それから頸の横から前にかけてのライン(胸鎖乳突筋:「きょうさにゅうとつきん」という筋肉です)付近を指先で軽くゆすります。
力を入れ過ぎると近くにある血圧のセンサーが作動して血圧が急降下することがあるので、あくまで表面を揺さぶる感じで行ないます。
特に回数や時間は決めていません。
作業の合間や気づいた時にちょっとやってみる程度でもコリそのものを揉むだけよりも効果的です。
寝る前に仰向けになりながら行うと筋肉が重力から解放されているのでより効果的です。
日ごろのセルフケアに加えてみてはどうでしょうか?
ちなみに患者さんを診ていると、営業など外回りのお仕事の方や飲食店のホールスタッフなどの方も意外とデスクワークの方と同じような姿勢になっています。
物理的な影響と言うよりは、おそらく「前のめり」の気持ちがそのまま姿勢に出てしまっているのだと考えられます。
どんな職種であれ、忙しいことに変わりはありませんが時にはペースダウンして、あるいは立ち止まって一休みするのも大事です。
自身の心身の姿勢を見直して、リフレッシュして日々の物事に当たりたいものです。
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湯浅 陽介(ゆあさ ようすけ)
1974年富山県生まれ。あん摩マッサージ指圧師、はり師きゅう師の資格取得後、教員養成科にて同教員資格取得。東京八丁堀の東京医療福祉専門学校に専任教員として勤務。学科と実技の授業を担当。学校勤務の傍ら、週末には臨床に携わっている。
学校HP⇒ http://www.tokyoiryoufukushi.ac.jp/index.php
学校FB⇒ https://www.facebook.com/tokyoiryofukushi/
学校ツイッター⇒ https://twitter.com/tif8chobori

養生ラボ編集部です。インタビュー取材、連載コラム編集など。