看護師や療法家を含む医院・施設専属のクリニカルアロマケアチーム タッチケアサービスさんによる連載コラムです。
産後のお母さんと向き合う~傾聴を使った対話について
出産後、入院中のお母さんのトリートメントに入る時は、最初にカウンセリングをします。
「私の気持ちをわかってくださって、ありがとう。」
「安産だったから、辛いと思ってはいけないと思っていた。」
産後ケアの現場では、出産後のお母さんから、心に溜めている思いを伺うことが度々あります。
傾聴で大切な3つの基本要素
「安産だった。」と言われたら、次にどう答えますか?
「無事のご出産で本当に良かったですね。」
これは、相手の言葉の共感的理解になります。
でも、大切なのは、この後の展開です。
私は「後から時間が短かったとわかっても、その時は激しい痛みが一気に来て大変でしたね。よく、頑張りましたね。」とお伝えしています。
この相手への返答では、言葉だけではなく、声の調子、顔の表情、しぐさなど、全てに集中します。
返答が、「そうなんです、痛かった!」と笑って答える方もいれば、「安産で良かったわね、と皆に言われてしまうと、他の方はもっと辛くて大変だったと思ってしまい、辛かった、と言えなかった。」と、人に言えなかった胸の内を話してくださる方がいます。
さらに、「私は軽かったから他の方に比べてずっと楽です。」と話す方がいらっしゃいます。
この時に本当に大丈夫な方なのか、本心をすぐには出せないでいる方なのか、を見極めることが鍵になります。
産後ケアでは一期一会のケースが多く、カウンセリングに使える時間は数分間です。
この数分間で相手との信頼関係を築くには、話を聞くだけではなく、非言語の五感を使った傾聴を行うことが大切になります。
傾聴では3つの基本要素があります。
・無条件の肯定的関心→相手のすべてを尊重し、無条件に受け入れる。
・共感的理解→言葉の内容から、相手の気持ちを汲み取る。
・自己一致→自分の中に起きる感情を認識しながら、安定した状態で相手に嘘や矛盾のない状態で向き合う。
また、コミュニケーションには、言語と非言語があります。
・言語→話しの内容
・非言語→表情、身振り手振り、声のトーン、息づかい、顔色、視線など五感を感じる。(五感とは視覚、聴覚、触覚、臭覚、味覚)
コミュニケーションで大切なのは、言葉を聞くのだけはなく、相手のこころを受け止めることです。
そのために、懸命に五感を使い、相手のこころを誠実に受け止めた時、相手も、自分が受け止められて理解された、と感じます。
さらに、妊娠から出産までの間に、本人が何を辛いと感じているか、何に気持ちを傾けているかを感じ取り、その気持ちを引き出せるように、言葉を添えることも大切です。
トリートメントを始める前に、相手との信頼関係が築けると、より安心して身を委ねてくださり、多くの方は安心して熟睡します。
五感の嗅覚と触覚を使った非言語のコミュニケーション
妊娠から出産まで約280日。一つとして同じお産はなく、各々環境も状況も違います。
出産をどう迎えるか、に不安を感じることも多いかと思います。
自然分娩の場合は陣痛も様々ですし、帝王切開の方は手術に向かう覚悟が必要です。
また、逆子による帝王切開、緊急の帝王切開の場合、自分が理想としていた形のお産ではない場合もあるでしょう。
お産は、どのような形であっても命がけです。
産後の体は、母乳を出すために、体の中でホルモンが大きく変わります。
さらに、エストロゲンの急激な減少により、セロトニンなど脳内物質の働きも悪くなります。
「妊娠は病気ではない、産後は1か月たてば普通に動いている。」
耳にしたことがある言葉だと思います。
たしかに妊娠は病気ではありませんが、出産によるダメージとホルモンバランスの急激な変化により、様々な不調が起こります。
この様々な不調に対して、アロマテラピーによるトリートメントは、五感の嗅覚と触覚を使った非言語のコミュニケーションになります。
産後は痛みにより、呼吸は浅くなりやすいですが、好きな香りをゆっくりと嗅ぎながら呼吸が深くなると、次第に緊張は緩んでいきます。
ゆったりとしたリズムで手のひらの温もりが伝わると、幸せホルモンとも呼ばれるオキシトシンが出ることで、産後に減少していた神経伝達物質のセロトニンが活発になり、出産でダメージを受け、緊張していたからだとにこころは次第にほぐれていきます。
短い時間でも、深く熟睡できた後は顔色も明るくなります。
終了の際は、「夜の授乳で毎晩、大変でしょうが、どうぞお体を大切になさってくださいね。」と、こころをこめてお伝えしています。
これから始まる子育ての前に、寄り添う手当をお届けし、元気になっていただけるようにと思っています。
タッチケアサービス 島田 浩子
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看護師や療法家を含む医院・施設専属のクリニカルアロマケアチーム。出産直後の患者、延べ15.000件以上の症例等を保有。
西洋医学・東洋医学両視点からのケアを深めるための講座を開催。現場に則した内容の講義講座や勉強会を行う。
クリニカルセラピストを目指す方、セラピストとして学びを深めたい方、また各療法家、医療従事者すべての方が対象で理論だけにとどまらず実践的かつ専門的に学んでいる。
また、様々なかたちで生活に取り入れやすいホリスティックライフ実践のための提案・ケアを一般対象にも行っている。
【touch care services lesson】
産院専属セラピストチームから産後ケアを学ぶ、年4回のホリスティック産後ケア講座開講中
詳細・問い合わせはタッチケアサービスHPまで → http://www.touchcare-s.com
養生ラボ編集部です。インタビュー取材、連載コラム編集など。