病気予防に消化器を元気づけるツボを用いた養生法

あん摩マッサージ指圧師、はり師きゅう師の資格を持ち、東京医療福祉専門学校に専任教員として勤務されている湯浅陽介さんによる連載コラムです。

「消化器をサポートするツボ刺激」

7月に入りました。

七夕の日が二十四節気の小暑で、梅雨が明ける頃です。

暑さが本格化する時期です。

7月には暑さに負けないように、と鰻を食べる「土用の丑」の日があります。

今年は27日がこれに当たります。

この土用、実は夏だけでなく四季のそれぞれにあります。

このことは東洋医学的な世界観・宇宙観である「五行説」にその由来をみることができます。

これは万物が「木火土金水」の5つの要素からなる、という考え方です。

各要素は、木が燃えて火を生み、燃えガラが土になり、土の中で鉱石のような金属が生まれ、金属に結露して水が生まれ、水は木を育て・・・という相互の関係にあります。

これを「相生関係」と言います。

この五行を四季にあてはめます。

単純に1年間365日を「木、火、土、金、水」の5つに分けると73日です。

上表のように四季に「長夏」を足して、「五季」とする考えもありますが、「四季」をベースに考えると73日ずつを春の「木」、夏の「火」、秋の「金」、冬の「水」にそれぞれ割り当てます。

五行の関係性【夏の土用】

余った73日を各季節の間の「土」として配置します。

これが土用です。

それぞれ、「立春」「立夏」「立秋」「立冬」の前にあります。

73日間を4つに分けるので18.25日となり、現実的には18~19日間です。

ちなみに今年の夏の土用は19日間です。

五行の配置は絶対の決まりがあるわけではないので、四季のように「土」が各季節の間に散っていたり、下図の方角のように「土」が中央にあったりと自然の中で柔軟にそのあり様を違えています。

「夏の土用」丑の日に鰻を食べるという習慣

さて、そんな土用の中でも、「夏の土用」の丑の日には、鰻を食べるという習慣があります。

そのはじまりは暑さの厳しい土用の時期、その丑の日に「う」のつく食べ物を食べると病気にならないと言われていたとか、江戸時代に平賀源内が夏場に鰻が売れない鰻屋のために発案したとか言われています。

ところで、「丑の日」とは十二支の「丑」です。

年と同様に日にも十二支があり、その「丑の日」ということです。

例えば今月、7月1日は「亥(い)の日」です。

しかし、夏バテや夏の病気予防に、と鰻を食べることは消化器が丈夫でない人には重たく感じるかも知れません。

上述の平賀源内の件にあるように夏場に鰻が売れない、ということが有りうるわけです。

決して鰻のネガティブ・キャンペーンではありませんが江戸時代に書かれた貝原益軒の『養生訓』でも「多く食うべからざる物」の1つに「鰻鱺魚(うなぎ)」(原文ママ)があります。

多く食べることで養生の妨げになるものとして挙げられています。

程度問題ではありますが、消化器に負担をかけるためと考えられます。

夏季の人体の生理を東洋医学的に述べる

また、夏の身体のありようとして「陰気かくれて腹中にある故、食物の消化する事おそし。」とあります。

これは夏季の人体の生理を東洋医学的に述べています。

東洋医学において「陰陽論」は宇宙や自然が陰と陽から成り立っているとする考えで、先述の五行説と並んでその根幹となるものです。

人体において「陽気(陽の気)」は活動、「陰気(陰の気)」は休息を司ります。

そして夏という暑く、生命が活発化する季節には自然界の「陽気」が盛んになります。

そんな時期には人体の「陰気」は外界の「陽気」を避けて腹中へかくれるという訳です。

腹中には東洋医学でいう脾胃、消化器があります。

腹中に隠れた「陰気」によって脾胃は活動を弱め、消化がおそくなるのです。

夏場に食欲が出ないことがありますが、上記のメカニズムを考えれば自然なことと思われます。

このように暑さの厳しい時期の体調管理は負担をかけることを避ける、というのが養生の第一と言えます。

貝原益軒は夏には「生冷の飲食を禁じて、慎んで保養すべし」とも言っています。

意訳ではありますが「生ものや冷たい物を避け、夜更かしや過労などをせず過ごすべき」と言うことでしょう。

さらに、上述の生活上の注意とあわせて、ツボを用いた養生で消化器を元気づけ、夏を乗り切りたいものです。

消化器を元気づける!ツボを用いた養生法

①「足三里(あしさんり)」

まず、ファーストチョイスとしては、「足三里(あしさんり)」というツボを刺激します。

位置は膝のお皿の下にある外側のくぼみから指4本分下です。

そちらを親指で心地よい強さで圧迫します。

   

また、ツボの連続した線である経絡(足の陽明胃経(ようめいいけい))に沿って圧迫して行きます。

   

足三里からスネの骨の少し外側を上から下へ刺激して行きます。

②「太白(たいはく)」

続いて、消化器を東洋医学では脾胃とセットで扱うので、足の太陰脾経(たいいんひけい)という経絡にある「太白(たいはく)」というツボを刺激しましょう。

足の親指の付け根の骨のふくらみのすぐ後ろにあります。

こちらを圧迫します。

   

同様に太陰脾経も刺激します。

内くるぶしからスネの骨の後ろ側に沿って走行していますので、下から上に向かって圧迫して行きます。

   

足のツボの他、消化で注目したいのは唾液です。

「唾液腺」を刺激し分泌を促す

唾液もアミラーゼという消化酵素を含んだれっきとした消化液です。

貝原益軒も「津液(しんえき)(唾)をばのむべし、吐く(はく)べからず(カッコ内筆者補足)」と戒めています。

唾液の大事さを述べた一文です。

この唾液、人為的に「唾液腺」というものを刺激し分泌を促すことができます。

これで消化を助け、夏の体調不良を遠ざけようという訳です。

③「下関(げかん)」

唾液腺にはおたふく風邪で腫れる耳下腺の他、顎下腺、舌下腺があります。

耳下腺は文字通り、耳の斜め前下、下あごのいわゆる「エラ」に相当する場所にあります。

   

ツボで言うと、先ほどの足の陽明胃経に属する「下関(げかん)」が近くにあります。

しかし、点と言うよりは、面で広めにマッサージすると良いです。

唾液の分泌が促されます。

    

顎下腺、舌下腺はいずれも下あごの骨の下、というより裏にあるイメージです。

顎下腺は下あごの裏の両脇、舌下腺は下あごの裏の中央に位置します。

そこにはいわゆる経絡に属するツボはありませんが、臨床から発見された「増音(ぞうおん)」、「上廉泉(じょうれんせん)」というツボが近くにあります。

下記の写真のように顎下腺には「増音」、舌下腺には「上廉泉」がそれぞれ相当します。

喘息や咳の症状に使われるのが一般的ですが、こちらを親指で軽めに圧迫して刺激します。

これらも広めに面的にとらえます。

やはり唾液の分泌が促進されます。

   

今年の夏の土用は7月20日から8月7日です。

暑さが最も厳しいとされる時期、養生とツボ刺激で乗り切りたいところです。

【関連記事】

体内の「湿」を外に出す役割「脾」を強めると「湿」を除ける【経絡へのセルフマッサージ】

東洋思想からみた健康のバランス《氣・血・水》によって身体は構成される

抜け毛、若白髪と食の関連、血液の循環が反映【髪と腎臓の関係】

湯浅 陽介(ゆあさ ようすけ)

1974年富山県生まれ。あん摩マッサージ指圧師、はり師きゅう師の資格取得後、教員養成科にて同教員資格取得。東京八丁堀の東京医療福祉専門学校に専任教員として勤務。学科と実技の授業を担当。学校勤務の傍ら、週末には臨床に携わっている。

学校HP⇒ http://www.tokyoiryoufukushi.ac.jp/index.php

学校FB⇒ https://www.facebook.com/tokyoiryofukushi/

学校ツイッター⇒ https://twitter.com/tif8chobori

学校インスタグラム⇒https://www.instagram.com/tif8chobori/?hl=ja

※【LINE公式限定】情報盛りだくさん!友達追加よろしくです。

友だち追加数

病気予防に消化器を元気づけるツボを用いた養生法
この記事をお届けした
養生ラボの最新ニュース情報を、
いいねしてチェックしよう!
トップへ戻る