あん摩マッサージ指圧師、はり師きゅう師の資格を持ち、東京医療福祉専門学校に専任教員として勤務されている湯浅陽介さんによる連載コラムです。
「梅雨時の湿気を迎え撃つ経絡へのセルフマッサージ」
暦が6月に入りました。
11日の入梅を待たずに沖縄・奄美地方はすでに梅雨入り。
残りの日本各地の梅雨入りも、そろそろでしょうか。
さて、梅雨時は食べ物や部屋の一部にカビが生えることがあります。
もちろん、カビの胞子が一番の原因ではありますが、発生を助長するのは湿気です。
そして、湿気が悪さをするのは食べ物だけではありません。
我々、人間の身体にも湿気は影響を及ぼします。
人にもよりますが、梅雨時の他に普段の雨降りの日、台風が近づいている時などに手足が重く感じたり、身体がだるかったりすることがあります。
あるいは古傷が痛む人もいるのではないでしょうか。
これを東洋医学では「体重節痛(たいじゅうせつつう)」と言います。
「身体が重い、関節が痛い」という意味です。
東洋的な人体観では、このような症状は五行説における「五気」の「湿邪」が「五主」の「肌肉」に入ったためと考えます。
五行説とは万物が「木火土金水」の5つの要素からなる、という東洋哲学の自然観・宇宙観のことです。
下表に示します。
スポンジが水を吸うと重くなるように、人体の肌肉が湿気を吸うと重くなる、というイメージです。
では、そんな時にどうすれば良いか、あるいは予防は?と思われることでしょう。
そこで上表の五行色体表(ごぎょうしきたいひょう)を見てみましょう。
体内の「湿」を外に出す役割がある脾に対してアプローチ
「湿」や「肌肉」が属する「土」には五臓の「脾」があります。
「脾」は現在の脾臓とは異なり、消化を司る臓器と考えられています。
食物だけではなく水分の代謝にも寄与していると考えられ、体内の「湿」を外に出す役割があるとされています。
東洋医学では「脾」を強めると「湿」を除ける、「水はけの良い」身体になると考えられています。
その「脾」に対してアプローチできるのが、東洋医学で治療対象となる「経絡(けいらく)」のうちの「足の太陰脾経(たいいんひけい)」です。
経絡とは、簡単に説明すると、いわゆる「ツボ」を連続させた身体上のラインです。
それは人体のそれぞれの臓腑、つまり内臓に対応していると考えられていて、上述の「脾経」のように臓器の名前が付けられています。
この脾経は足の親指の爪の内側から内くるぶしの前を通って、スネの骨の後ろのラインに沿って上行しています。
この脾経に沿って、手の親指で指先から膝へ向かって圧迫していきます。
圧迫する強さは心地よい程度に、仕事の合間やお風呂上りなどちょっとした時間に行なってみましょう。
写真のように靴を履いている場合は足首から膝までを圧迫してみましょう。
さて、東洋医学においては五行説の他、「陰陽論」があります。
森羅万象、すべてが陰と陽から成り立っているという考えです。
たとえば「上下」、「表裏」、「前後」などです。
消化器系を「脾胃」とセットで扱う
そして人体にも陰陽があり、脾が属する「五臓」は「陰」、対する「五腑」は「陽」で、それらがさらに五行に属して、下表のようになっています。
そうすると、脾のペアは「胃」です。
東洋医学では消化器系を「脾胃」とセットで扱うことが多いです。
ここでも同様に脾経に加え、「足の」へのアプローチも行います。
胃経は、向う脛の少し外側から足関節の正面を通って足の第2指(手で言う人差し指)の爪の外側へ下行しています。
この流れに沿って、脾経同様に圧迫していきます。
ここまでが「脾胃」を中心としたアプローチです。
その他、体内の「湿」すなわち水分を代謝することを考慮すると、単純に排尿機能を促進することに着目したいところです。
まずは、前出の五行色体表で、文字通り「水」を司る「腎」と「膀胱」です。
それぞれ、「足の少陰腎経(しょういんじんけい)」、「足の太陽膀胱経(たいようぼうこうけい)」です。
腎経は足の裏から始まり、内くるぶしの後ろを通ってアキレス腱の前をふくらはぎに沿って上行します。
膀胱経は膝の裏側からふくらはぎの中央を下がってアキレス腱の外側から外くるぶしの後ろを通り、足の小指の爪の外側に達します。
それぞれの流れに沿って圧迫します。
ここまでは足へのアプローチですが、最後は腕に行きましょう。
「手の少陽三焦経」へのアプローチ
前出の表の「火」部分の「相火」に属する「三焦(さんしょう)」へのアプローチです。
細かい説明は省きますが、「三焦」については諸説あるものの、「上焦」、「中焦」、「下焦」の3つを「三焦」と言い、人体の上(頭)・中(胴体)・下(腰から下肢)を指すとされます。
ここでは特に脾胃が属する身体の「中焦」部分と排尿に関連する「下焦」部分が重要ですが、時に代謝の悪さから頭がボーっとしたり、痛みを起こしたりすることがあるので「上焦」も無関係ではありません。
このように上・中・下の三焦がありますが、司る経絡は「手の少陽三焦経」1つです。
こちらへ圧迫刺激を行ないます。
三焦経は薬指の爪の小指側の端から手の甲を通って手首の中央から前腕の中央を肘へ向かって流れます。
これに沿って圧迫して行きます。
以上が経絡の「流れ」へのアプローチでした。せっかくなので今回はその上に力点をおくべきポイント、すなわち「ツボ」の紹介もしたいと思います。
『難経』で体重節痛に用いるツボ
東洋医学に関してよく名前が出る書物に『黄帝内経』がありますが、今回は同書が著された後に世に出た『難経(なんぎょう)』(成立年不明)から引いてみました。
この書物は鍼の治療に関することが多く、実際の治療に応用する先生方もいます。
中国では元や明、日本では江戸の頃にも同書の解説本が著され、現代でも解説書が新たに出版されています。
難経集注(中国語) (中医非物質文化遺産臨床経典読本)
難経解説
さて、その『難経』には体重節痛に用いるツボが示されています。
難しい解説は省きますが各経絡の「兪穴(ゆけつ)」が良いとされています。
体重節痛に良いとされる兪穴は、脾経では「太白(たいはく)」、胃経では「陷谷(かんこく)」、腎経では「太渓(たいけい)」、膀胱経では「束骨(そっこつ)」、三焦経では「中渚(ちゅうしょ)」が該当します。
太白は足の親指の内側を指先からさすって指の付け根の関節を越えた凹みです。
陷谷は足の第2指の外側で指先からさすって行き、指の付け根の関節を越えたところにあります。
太渓は内くるぶしとアキレス腱の間です。
束骨は足の小指の外側を指先からさすって指の付け根の関節を越えた所です。
中渚は薬指の外側を指先からさすって付け根の関節を越えた所です。
各経絡をマッサージする中で、上記のツボを圧すときにはちょっと長めに気持ち良い強さで行なってみましょう。
これから梅雨のジメジメした気候が続くと思いますが、経絡やツボへの刺激で身体を湿気の影響を受けにくい状態に保ちたいですね。
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湯浅 陽介(ゆあさ ようすけ)
1974年富山県生まれ。あん摩マッサージ指圧師、はり師きゅう師の資格取得後、教員養成科にて同教員資格取得。東京八丁堀の東京医療福祉専門学校に専任教員として勤務。学科と実技の授業を担当。学校勤務の傍ら、週末には臨床に携わっている。
学校HP⇒ http://www.tokyoiryoufukushi.ac.jp/index.php
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学校ツイッター⇒ https://twitter.com/tif8chobori
養生ラボ編集部です。インタビュー取材、連載コラム編集など。