自然界を「天地人」に分ける「三才思想」【養生の心得】

あん摩マッサージ指圧師、はり師きゅう師の資格を持ち、東京医療福祉専門学校に専任教員として勤務されている湯浅陽介さんによる連載コラムです。

すでに自然界は秋に移行

今年は梅雨明けが、かなり遅くなり夏の暑さの本格化も遅れました。

しかし、さすがに今の時期は夏本番の様相です。

夏になったばかりの感はありますが、8月上旬にはもう「立秋」があります。

今年は8月8日がそれにあたります。

暑い最中ではあるのですが、すでに自然界は秋に移行して行きます。

その時期にはもう冬に向けての養生を始めるのだと古代中国人は説いています。

このことについて中国最古の医学書とされている『黄帝内経』の記述を繙いてみます。

そこには以下のように書かれています。

「秋三月、此謂容平。天気以急、地気以明。早臥早起、与雞倶興。使志安寧、以緩秋刑。
収斂神気、使秋気平、無外其志、使肺気清。此秋気之応、養収之道也。逆之則傷肺、冬為飡泄、奉蔵者少。」

一見して難解な漢文ですが、少しずつ見て行きます。

「秋三月、此謂容平。」は、秋の3か月間を「容平」と言うとの意味です。

秋とは立秋から立冬までの3か月間と考えられています。

そして「容平」は自然界の容貌、有り様が平らになる、という意味に読めます。

夏に生い茂った植物や増えた生き物たちが秋には減って行くことを言っているのでしょう。

「容平」の二文字で秋の様子を表してします。

「天気以急、地気以明。」は「天の気は急を以てし、地の気は明を以てする」と読めます。

天の気は文字通り、天気と考えても差し支えないと思います。

この時期には台風やその後の秋雨前線などによる天気の変動や急変があります。

翻って地の気は地上に見える変化と考えて良いと思います。

植物は最盛期を過ぎて枯れて行きますが、綺麗に色づく季節でもあります。

地上は紅葉で彩りが明るくなります。天地にみられる秋の様子を述べています。

さて、秋の天と地のことが述べられました。

自然界を「天地人」に分ける「三才思想」

中国の思想には、自然界を「天地人」に分ける「三才思想」があります。

なのでこの後は、我々「人」について述べられます。

続く「早臥早起、与雞倶興。」は早く寝て早く起きること。

それは鶏と共に起きるくらいのものであると述べています。

「使志安寧、以緩秋刑。」は「志(気持ち・意識)を安寧にして秋の刑を緩める。」と言っています。

気持ちを安寧にするのは分かりやすいですが、「秋の刑」は理解し難いところですね。

おそらくは秋は気温も下がり、動植物が枯れたり死んだりしていなくなって行く季節ですから、それを「刑」という表現にしたと考えられます。

秋は心もどこか物悲しい感じがします。

東洋の思想に宇宙や自然界が五つの要素からなる、という五行説があります。

下表に示していますが、「五季」の「秋」に対応する「五志」は「憂」です。

秋が動植物に死や枯死をもたらすように、人心に「憂い」をもたらしており、これも秋の「刑」と考えられます。

すると、気持ちを安寧にすることで「秋の刑=憂」を緩めることができる、とも考えられます。

身体をめぐるエネルギー

次の「収斂神気、使秋気平、」を見てみましょう。

「神気」はそのまま身体をめぐるエネルギーと考えます。

その神気を収斂し、秋の気を平らにする、と読めます。

秋には外気が冷えてきます。

身体が発散する状態にあると、秋の冷気を受けやすく、体温を下げてしまいます。

そこで「収斂」が必要なのです。

上記の表でも「秋」に対応する「皮」は皮膚のことで、収斂によって寒さから身体を守っています。

それによって身体が受ける秋の気を平らにする、病になる要素をなくす、ということなのです。

アウトプットよりもインプット

続いて「無外其志、使肺気清。」とあります。

「志(意識・気持ち)を外に出すことなく、肺気を清らかにする。」と読めます。

意識を外に向けずに内向きの作用、アウトプットよりもインプットを心がける、ということでしょう。

内省的に過ごしたり、その材料として書籍に触れたりすることも良いでしょう。

これによって肺の気が清らかに保たれると考えられます。

「肺」に対応する「憂」が健全に昇華されるため、と思われます。

「読書の秋」は東洋医学とも整合性がとれているのです。

どうやら秋は身体的にも精神的にも「外に出さない」、「中に持っておく」季節のようです。

それを表していると思われるのが続く「此秋気之応、養収之道也。」です。

「これが秋の気に応じることで「収」を養う道である。」と言う意味になります。

「収」とは上表の「五能」の「秋」に対応するものです。

植物は実をつけ栄養をその中に収め、動物は冬眠に向けて多くの食物を摂り、栄養を収めます。

秋はこのような季節であると述べています。

そして、この営みに従わない場合は「逆之則傷肺、冬為飡泄、奉蔵者少。」となります。

「これに逆らえば肺をり、冬にをなす、蔵に奉ずるは少なし」と読めます。

意味は「これに逆らうと肺を悪くし、冬に下痢の病となる、(冬の作用の)蔵に貢献することは少なくなってしまう。」と言うことです。

ここで言う「肺」は現在の肺の他、呼吸器全般、ひいては上表の「肺」が司る「皮」までも含めると思われます。

寒気から身を守るべく行われる皮膚の収斂が充分でなかった場合、身体は、秋やその後に続く冬の寒気に曝されます。

そして肺が司る皮膚は口から折れ返って気道や消化器の粘膜になります。

丁度下図のイメージです。

ですから皮膚の状態が悪いと、続く消化器の粘膜も不調となり、下痢を起こすのだと考えられます。

確かにアトピーの患者さんには下痢や便秘など腸の不調を併発している方がよくいます。

また、古来の健康法に乾布摩擦がありますが、皮膚を刺激することで呼吸器や消化器粘膜も鍛えられることがその根拠と考えられています。

「冬」における「蔵」の作用

さて、下痢が起こると余計な排泄が起こるため、前出の表の「冬」における「蔵」の作用、蓄えが少なくなってしまうのです。

冬眠する熊がそうですが、秋には皮下脂肪を蓄えます。

冬には寒さに曝されますから、人間も保温のためには多少の皮下脂肪が必要です。

また、脂肪はコレステロールを含みますが、これは寒さをはじめとしたストレスに耐えるための「副腎皮質ホルモン」の原料になる物質でもあります。

ちなみに副腎は腎臓のすぐ上にあるホルモン分泌をする器官です。

前出の表でも「冬」に対応する「五臓」は「腎」で、これは副腎を含む腎臓だと見る先生もいます。

さて、こうして見ると「食欲の秋」はごく自然なことなのだということがここから分かります。

これを東洋医学では「収」という作用に集約してとらえたのです。

まだ暑い日が続くと思いますが、立秋から先は冬を見据えて早寝早起きをすることと心の安寧を保ちましょう。

また、外にあれこれ気を巡らせることなく読書などをしながら内省的に過ごしましょう。

現実的には多忙な日々を送られる方もあると思います。

せめて終末だけ、あるいはお盆休みの間だけでも、身体には栄養を、心には知恵を蓄えて冬を元気に過ごせるように今から心と身体のあり様に気を配ってみて下さい。

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湯浅 陽介(ゆあさ ようすけ)

1974年富山県生まれ。あん摩マッサージ指圧師、はり師きゅう師の資格取得後、教員養成科にて同教員資格取得。東京八丁堀の東京医療福祉専門学校に専任教員として勤務。学科と実技の授業を担当。学校勤務の傍ら、週末には臨床に携わっている。

学校HP⇒ http://www.tokyoiryoufukushi.ac.jp/index.php

学校FB⇒ https://www.facebook.com/tokyoiryofukushi/

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