「自然栽培」は水をきれいにする【土と植物がもつ力を最大限に生かしていくのが自然栽培】

「自然栽培」は水をきれいにする。

取材・文/編集部

撮影/木村江利

イラスト/岸田真理子

出典/季刊書籍『自然栽培』

自然栽培に取り組み、普及に奔走するリンゴ農家の木村秋則さんによる、生命の源「水」の話。

農業には水を守る責任がある

私が自然栽培を広めているのは、水をきれいにしたいからです。

水がきれいになるためには土がきれいでなくてはいけません。

土を汚いものと思っている人がいるかもしれませんが、土は本来きれいなのです。

それだけなく水の汚れをきれいにしていく力があります。

地下水や湧き水がきれいなのは土に浄化力があるからです。

本来きれいなはずの土や水を汚しているのは人間です。

山の水はきれいですが、途中で汚れてしまったら、その汚れは海にまで影響します。

日本中どこでも上流にあるのは山で、山が水源です。

そこから農村地帯が広がり、下流にあるのは工業や商業地帯、そして住宅地帯です。

そう考えると、山の水源に近い農村地帯には、きれいな水を守る責任があると、私は思っています。

肥料の多用で水が汚染される

なぜ自然栽培は、水をきれいにするのかというと、肥料も農薬も使わないからです。

「農薬はわかるけれど、肥料も水を汚すの?」と思われるかもしれませんが、実は、肥料も水
を汚します。

それは、硝酸態窒素(しょうさんたいちっそ)の問題です。

硝酸態窒素は、血液中の酸素不足を招いたり、発がん性物質のもとになるなど、体に悪影響を与える物質で、日本でも水道水の残留基準値が決まっています(*1)

この硝酸態窒素は、土に肥料を施すことで土のなかに溜まっていくのです。

植物は硝酸態窒素を根から吸収して成長するので、農家は農作物を早く大きくしたいために肥料を施します。

それが、植物が使いきれる量の肥料ならいいのですが、実際にはそれ以上の肥料が施されるので、土壌から流失して、私たちの飲み水のもとになる地下水や川が汚染されるのです。

もう一つの問題は、肥料を大量に施すことで、植物は吸収した硝酸態窒素を使いきれず、植物の体内に残ってしまうという問題です。

EUでは野菜に硝酸態窒素の残留基準値がありますが、日本では基準値がありません。

水道水ではかなり厳しい基準値があるにもかかわらずです。

硝酸態窒素は、化学肥料だけでなく、有機肥料であっても大量に土に入れれば野菜に残留したり、地下水を汚染したりします。

私が、農薬だけでなく肥料も使わない自然栽培を広めている大きな理由のひとつです。

本来の土には、浄化力がある

自然栽培は環境を修復していく栽培です。

とくに、水の汚れをきれいにしていきます。

先ほども言ったように、土には、土そのものに浄化力があります。

なぜなら、土は生きているからです。

1gの豊かな土のなかには億を超える微生物たちがいることがわかっています。

これらの微生物は、人がよけいな肥料を与えたり農薬を使うと、本来の力を発揮することができません。

土と植物がもつ力を最大限に生かしていくのが自然栽培なのです。

農業にかぎらず、土の力を生かそうという試みは少しずつ広がっていくのではないかと思っています。

ドイツ(ハノーバー市)では、環境への配慮から排水溝にU字溝を使わないそうです。

これは、地下に水を浸透させる意味もありますが、土と水をコンクリートで遮断しないこと
で、水を浄化していく意味もあると思うのです。

田んぼを整備して、用水路をU字溝にしてしまうと、生きものがいなくなります。

蛍などは、農薬の影響も受けやすいですが、U字溝にしてしまうとすぐにいなくなります。

カエルやメダカなども、土や草などがないと生きていけません。

土と水が接することで命が育まれているのです。

(* 1)平成26 年2 月28 日付け厚生労働省令第15 号「水質基準に関する省令の一部改正」により、水質基準項目に亜硝酸態窒素の新しい基準値が設定された。旧省令の水質基準では硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素の合計値として10mg / L の設定があったが、今回の改正では、単独の亜硝酸態窒素として、従来の250 分の1にあたる0.04mg / L の基準値が設定された。硝酸態窒素を含む肥料などにより汚染された地下水や井戸水を飲料した場合、体内の腸内細菌によって硝酸態窒素が還元され亜硝酸態窒素に変化する。亜硝酸態窒素を含む水を飲用しても同様だが、体内に吸収された亜硝酸は血液中のヘモグロビンと反応してメトヘモグロビンになる。これによるメトヘモグロビン血症や、発がん性物質のニトロソアミンを生じる問題が指摘されている。


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自然栽培 vol.19 巡り巡ってあなたを生かす。「水」は、すべて。

自然栽培Vol.19より許可をいただき一部転載させていただいています。

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