日本のホメオパシーの草分けであり、第一人者であるハーネマンアカデミー学長の永松昌泰さんにお話を伺っています。
前回の記事はこちらから→ホメオパシーの海外事情【フランス、イギリス、インド、キューバなど】
病気の作用機序を医学、薬学では一番重視します。病気の中で病気のメカニズム、作用機序が大体わかっているものは100種類くらいあります。
その中で治る病気はどのくらいあると思いますか?
何となくこう思っていませんか?
作用機序がわかりさえすれば、病気のメカニズムのどこをどう遮断すれば良いかがわかるはずだから、まあほぼ100%治るんじゃないかな、たとえ100%ではないにしてもいくらなんでも半分は治るでしょう、そんな風に思いませんか?
でも実際に治る病気はゼロなんです。ビックリしませんか?
作用機序、病気のメカニズムを遮断する、ということはいったい何を意味するか、です。
それは例えると、品川から東京駅に行かれないようにしたいとします。そこで国道1号線を遮断する、そうしたらもう東京駅には行けないですか?
ーーー他の道があります。
その通りです。他の道がありますよね、ではその他の道も遮断したらもう行かれませんか?
そんなことはありませんね。また別の道がありますよね。いくらでも道は無限にあるでしょう。そういうことなんです。
1つ通路が見つかった、それは別に間違ってはいないんですが、それが全てなのか、ということなんです。
作用機序、メカニズム、という理屈は、我々人間には確かにわかりやすい。わかりやすいけれど、自然の前では無意味、無力なんです。
確かにわかりやすいと、なるほど!と思うし、これで大丈夫だ!と思うんです、また最初は大丈夫なんです。
それまで国道1号線を使ってた人が1号線を遮断されたら、その道は使えないので1号線を通ることはできなくなり、一時的に到着する人は激減するかもしれません。
しかしもう東京駅には誰も到着しないだろうと思っていたら、とんでもない。いつの間にか元に戻っています。
しつこく聞きます(笑)。全部の車道を遮断したら、もう東京駅には行けませんか?
ーーー車以外の方法で行きます。
そうですね、どうしても行かないといけないんだったらどうにかして行くでしょ。
海から行ったり、新しい道を作ったり、もちろん電車で行ったり、歩いたり、もっと言うと品川から逆方向に向かってヨーロッパ、アメリカ経由で東京に上陸する(笑)。
とにかく無限に方法はあるのです。
つまり、作用機序、メカニズムという概念は人間の頭脳には説得力を持っていますが、自然はそういう風にはできてない。無限に他の道があるのです。
だから、幾つか遮断しても無力です。そこが人間の浅はかなところなんですよ。
病気の作用機序を遮断する、という単視眼的方法からでは病気は解決できないのです。
物事の大本(おおもと)を考えれば誰でもわかることなんですが、なかなか分からないのですね。
何でも大きな全体的視点から考えなければならないのです。
例えば牡蠣の養殖の話があります。
牡蠣の養殖で有名な気仙沼で赤潮が起きて大打撃を受けた。海を健康な状態に戻さなければなりません。
その時に始めたのが植林。
最初は、なぜ? 海を栄養分豊かな素晴らしい海にしようというのに、なぜ植林? となりました。
しかし、木を伐採して放置していたら、雨が降ったら何の栄養分も含まずにそのまま川に流れ込み、それが沿岸の海に流れて、非常に不健康な海になっていた。
植林して、葉が落ちて栄養たっぷりの腐葉土となり、雨が降ったら栄養分をたっぷり含んだ水がゆっくりと川に流れ、そして沿岸の海が素晴らしい理想的な状態になり、素晴らしい牡蠣に育つようになった、という話です。
そういう話はいくつも私たちの周りにあります。
新潟の町で町興しをしようとして、松が有名だったので、松を看板にしようとしたけれど、毎年松くい虫にやられて見る影もない。
それで松くい虫を殺す殺虫剤を撒くと、松くい虫は確かに死ぬ。
だけど翌年、更に松くい虫が大発生。それでまた殺虫剤で殺すけれど、またその翌年には大発生。
これではらちがあかないのでやめようとなり、せめて下草を刈りましょう、となって数年したら、ずっと生えなかった松露が出てきて、そのうちいつの間にか松脂が出てきた。
松露や松脂は、健康な松でないと絶対に出ません。そして松脂がある木には松くい虫は発生できないのです。
つまり、松が枯れる本当の原因は松くい虫ではなく、松が健康でないから枯れただけです。つまり松くい虫は、松が不健康である現れに過ぎなかったのです。
こういう現象はあちこちで起きているのですが、私達人間は本当に愚かで、そういうことになかなか気が付かずに分かりやすい短絡的思考しかなかなかできません。
松が枯れる原因は松くい虫だ。胃潰瘍の原因はピロリ菌だ、と言って「安心」している。
ヒントはあらゆるところにあるのですから、私達は傲慢にならずに虚心に学ぶ必要があります。
本当の解決とは「納得」による解決だけです。
攻撃して降参させるではなく、納得です。納得というと、とても不思議な感じがするかもしれませんが、本当は一番肝心なキーワードです。
攻撃して征服する、というのは攻撃した方は気分が良いかもしれませんが、相手は最悪の気分です。
いつか必ず復讐してやる、という復讐心を煽ります。
一番分かりやすいのが抗生物質に耐性を持つ耐性菌の問題です。
これは極めて頭の痛い大きな問題ですが、最初の抗生物質のペニシリンができて数年後には既にペニシリン耐性の耐性菌が現れました。
それ以降次々に新しい抗生物質ができましたが、例外なく数年後にはそれに対する耐性を持った耐性菌が現れます。それは必然です。
抗生物質というのはanti-biotics つまり生命に反対し対抗する物質という意味ですから、考えるとものすごい危険な意味です。
要は、「細菌達よ、お前たちは邪魔だ、みんな死ね!」というのが抗生物質です。
非常に強力なので、最初は皆殺しになります。
しかしそれを繰り返しているうちに、「不死身の化け物」が現れてくるのです。それが耐性菌です。
そして今は一般的にはヴァンコマイシンが最も強力な抗生物質ですが、これ以上強いものは実質無理なのです。
なぜかといえば、細菌も死ぬけど人間も死ぬ、ということになってくるからです。
耐性菌との戦いは、人間に勝ち目はないのです。
1つだけ道があります。それが「納得」です。
恨みを忘れ自ら矛を収めます。もうここは自分がいるべき場所ではない、と納得して消えていくのです。
松くい虫の話もそうです。もはや松くい虫のいる場所ではないと悟り、自ら消滅していった、ということなのです。
あるクライアントは抗生物質の繰り返し投与によってMRSAの問題が危険なレベルになっていました。
しかしホメオパシーのレメディーの後、突然MRSAがゼロになったのです。
医師は首をひねって、こんな症例は聞いたことがない、と言っていたそうです。もっとも、抗生物質が勝利をおさめたのかなあ、と言っていたそうですが(笑)。
まあそんなことはありません。
ホメオパシーという似たものによって、レメディーが抗生物質によって大量虐殺された細菌の恨みをじっくり聞いて恨みを溶かしたので、MRSAももう気が済んだのでそろそろ消えます(笑)、ということで自ら消えていったのです。
とんでもない話のように聞こえると思いますが、それで実際にMRSAが忽然と消えたという事実がそれを物語っています。
最後になりますが、最近の医療の傾向を見ていて、憂慮していることが一つ、そして大いに期待していることが一つあります。
憂慮していることは、最近ではどんどん医療が標準化というか防御的になってきていることです。
医療訴訟を起こされないということが、いつのまにか医師の最大のプライオリティになってしまっている。
患者にとってベストな方法を必死に考えるというよりも、後で問題にされない方法、もしかすると患者にとっては一番悪い方法であったとしても、とりあえず「標準的方法」なるものをやりさえすれば、
結果がどうであってもとりあえず非難はされないし訴訟にもならないからそうする、という方向に進んでしまっています。
いわゆる標準的方法とは違っても、この方にとってはこれがベストだ、と信念を持ってやった場合、結果が良ければ良いですが、家族の中には色んな人がいますから、結果として必ずしもうまくいかなかった場合、
調べてみたらこの医者は標準的な方法とは違うことをやっている、これは絶対おかしい!ということで他の医者に聞いてみると、それはおかしいですね、そんなやり方は標準のやり方にはない!と言われて訴訟になる。
患者のことを一生懸命考える良心的な医者であればあるほど医療訴訟になりやすくなるという、非常に皮肉なことも起こってきます。
そういう風潮が進むと、若い時には正義感で頑張っていても、だんだんバカバカしくなる。
それだけ患者のことを思っても一体自分は何を得るのか?
患者や患者の家族には非難され、医療訴訟になり、社会的にも非難され、場合によっては免許停止になる。
そうなると、誰も勇気を持って患者第一の医療を行えなくなってきます。
社会が変わっていかないといけないのです。
風邪の時に抗生物質は意味がないことを医者はわかっていますが、それを出さなかったら単に他の医者の所に行って、あちこちで悪口を言われるだけですから、バカバカしいと思っても抗生物質を出すしかなくなってしまいます。
基本的にヨーロッパでは風邪で病院に行ってもただそのまま返されますからね。
医療側ももちろんですが、患者側もちゃんと考え本当の知識を持たなければなりません。
ーーーなるほど、そうなんですね。患者も任せっきりではダメですよね。
最近NHKで、ガン治療に大きな変革が起きようとしている、という番組がありました。
プレシジョン・メディシンと言うのですが、直訳すると「精密な薬」。
今までのように、肺がんにはこれ、肝臓がんにはこれという大雑把な方法ではなく、患者のDNAを解析して患者に精密に合わせた薬を出す、という新しい方法がアメリカで始まっている、というのです。
つまり最新の医療プレシジョン・メディシンとは、一人一人に対するオーダーメイド医療なのです。
実は、ホメオパシーはオーダーメイド医療の先駆者です。
200年以上前からホメオパシーは一人一人の全体性を診て、その大きな循環をカバーする一つのレメディーを処方します。
疾患別という大雑把な処方ではなく、一人一人に対する精密なオーダーメイドの処方です。
時代はようやくホメオパシーに追いついてきた、ということです(笑)。
もっとも病気を敵として攻撃する、という基本認識は相変わらずではありますが、いよいよ面白い時代に入ってきました。
今回はあちこち脱線してしまいましたが、ホメオパシーの大きな柱である類似性とポテンシーについて主にお話させて頂きました。
もう一つの大きな柱である全体性と個別性について、またいわゆる副作用についての話はまた次の機会にぜひお話させてください。
これからホメオパシーはプレシジョン・メディシンの大先輩として(笑)、理想的なプレシジョン・メディシンを目指し、世界が幸せでいっぱいになるための真の力になっていくべく精進していきます。
有難うございました。
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永松昌泰
1958年生まれ。山口県出身。ハーネマンアカデミー学長。
慶應義塾大学工学部卒業後、コロンビア大学、パリ大学で哲学、文学、物理学専攻。家業の鉄鋼業を経営するうち、金属の変容・変態と人間の変容との類似に気づく。
英国にわたり、 ホメオパシーと出会う。1997年、ハーネマンアカデミー設立。日本ホメオパシー振興会主宰。
ハーネマンアカデミーのサイトはこちらから→ハーネマンアカデミー・オブ・ホメオパシー
著書に「ホメオパシー入門」(春秋社)、『花粉症とホメオパシー』 訳書に「ホメオパシー医学哲学講義」(タイラー・ケント)、「ホメオパシーの哲学 病の声を聴く(ジュリアン・カーライオン)他などがある。
養生ラボ編集部です。インタビュー取材、連載コラム編集など。